演 目
映画/噂の二人
観劇日時/05.6.12
61年/アメリカ・ワーナー作品
監督=ウイリアム・ワイラー
劇場/アートホール東洲館シネマクラブ


破滅に向かう微細な心理

 仲の良い二人の女性が協力して女子小学校を経営し、少し軌道に乗り出したころ、生徒の女児が自分勝手で我侭な悪意から「二人はレズ関係にあり、片方の女性の恋人との三角関係が険悪な状況にある」という噂を流す。
真に受けた父母たちは続々と児童を引き揚げ、ついに学校は空っぽになる。多分現在だったら、日本でさえそれほど問題にはならないであろうか。
しかしそのことはこの際問題ではない。要は外的な原因によってこの二人の関係が微妙にずれていく怖さ、破滅していくその心理過程の残酷さであろうか。
冒頭、のどかな田舎の私立学校の雰囲気が、古き良き時代の情景をたっぷりと味合わせながら、徐々に不安な心理に移行していく描写が続く。
異変を知って駆けつける恋人の医師に対して、ヘレン(=オードリィ・ヘプバーン)は「大事なときに正面から向き合ってくれない」と心が冷える。だがそれは駆け込んだ医師が彼女に顔を向ける前に、タバコの火を消すために一瞬横を向いただけにしかすぎず、だがそのことが彼女の心をグサっと傷つけたのだろう。それが彼女の心理が狂っていくきっかけになるわけだが、そういう微細な描写が的確に積み重ねられる。
ヘレンは当然気づかなかったし、相手の女性・マーサ(=シャーリー・マクレーン)も表面に出さなかったのだが、次第にマーサはヘレンに対する友情以上の感情をはっきりと現していく。
女児たちの悪意が白日の下になり、祖母は謝罪し弁償を申し出るが、もはや事は戻らない。純粋で変わらぬ愛を全うする医師もすでに退職させられていた。再出発を提案するが、ヘレンは素直に受けいれられない。そして行き場のなくなったマーサはついに自死する。
呆然と見送る男の視線を背に受けて、ヘレンはどこへとも知れずに去って行く。重い喪失感と行き所のない怒りを静かに秘めて……。小品ながら味わい深い映画だ。