演 目
午後の遺言状
観劇日時/05.6.11
松竹・北海道新聞社・HBC北海道放送=共催
作・演出/新藤兼人
美術/朝倉摂
音楽/林光
制作/松竹株式会社・他
劇場/深川市ホール「み・らい」


老年純愛物語

 認知症(いわゆるボケ)老人の老後を純愛で美化した物語。発病した老妻=南風洋子を献身的に介護する老夫=滝田裕介、最後には心中するわけだが、余りにも美化されすぎた綺麗事にはついていけず、むしろ白けた。
高名な女優=小川真由美の別荘の管理人=水谷八重子はその女優の夫との不倫の結果、娘を生んだ強かな女だ。その管理人と自分の夫との関係を初めて知った女優との奇妙な友情関係の話の方がずっと面白い。
この老妻と女優とが昔の親友という設定で、その別荘に老夫婦が今生の思い出に訪ねてくる。
脱獄囚が逃げ込んでくるというのはいささかご都合主義、エンターテインメントとしては定石というかんじだが、突拍子もない。
もともと映画だったものを舞台化したために、シーンの転換が多くて煩わしく、リアルにがっちりと造った舞台装置を換えるのに暗転の時間が掛かりすぎてテンポを崩し大いに興を削ぐ。これはこの劇場の舞台袖があまりにも余裕がなさすぎるためでもあるが、芝居は入れ物(劇場)の条件も大事だということを改めて痛感する。ここでこういう芝居は所詮無理なのだ。しかも袖に納まりきれなかった装置が、僕の席(最前列中央部分)からでさえ半分くらいも見えて、観ている方が恥ずかしい。
さすがに4人の俳優たちの細かな心理描写は巧く感心するが、大勢出てくる若手たちとの落差が激しすぎる。いかにも素人っぽい自意識の強い演技に辟易する。その中でさすがに若いエネルギーを代表する管理人の娘とその恋人の男は若々しく清潔でリアリティのある青春像を描いていた。
このところ東京での大劇場の芝居観劇が続いたが、小劇場好きの僕もさすがにどんな大劇場でもよいものは良いのだと改めて思ったのだが、この新派風の予定調和劇はやっぱり退屈したのだった。