演 目
鉛の兵隊
観劇日時/05.6.10
劇団名/唐組
公演回数/第35回公演
作・演出/唐十郎
劇場/雑司が谷鬼子母神境内特設テント劇場

華麗なロマンの健在

 国立大学の教授になっても65歳になっても唐十郎は、相変わらず貧相で薄汚れた紅いテントに廃物を集めたような舞台装置にこだわって新作の上演を続けている。そういえば彼は20代のころ、30過ぎた大人は信用できないと言っていたのだ。だから今でもその精神は忘れていないのであろう。
今夜は梅雨独特のじっとりとした小雨模様で、会場の鬼子母神境内は泥んこのぬかるみで、テント内の客席に敷かれた茣蓙もジットリと湿っぽい。
主人公の二風谷ケンは旭川近文の出身、友人の月寒七々雄は旭川近郊の鷹栖町の出身、そして「荒巻シャケ」やら「じゃこまん」などという登場人物、旭川第七師団の幽霊などという、唐十郎には珍しく北方志向充満の舞台である。
物語は、失われた指紋を巡っての姉弟愛と親友愛との純愛二重奏とみえるが、結局、自分探しの物語であろうか……唐十郎の戯曲はつまり純愛のロマンなのだ。
さまざまな幻想や煌びやかなイメージ、たとえば袖に隠された傷跡、ドラム缶の上で踊る満月を映した夜露、満月の欠片を摘んだ指先から失われた指紋、止まった砂時計、はぐれた鉛の兵隊などなどと展開する独特の世界が古ぼけた薄汚い廃材を集めた舞台装置の狭い空間一杯に広がる。
「暗い渦の底の涯。人はそこをのぞくまい、たどるまいと目閉じ、耳ふさぐのが、常、なりわい……が、あの男ばかりは、その渦を逆からたどり、筋を外れて、歩いてる」(当日パンフから)つまりそういう話だ。
唐十郎はもちろん、鳥山昌克、久保井研、辻孝彦、稲荷卓央などなど、おなじみの役者たちは健在で、4年ぶりにみる彼らはとても洗練された感じであったが、女優は5人とも初めてみる顔で、この劇団は観る度に女優が変わっているのが今回もそうだった。いったいどうなっているんだろうと思うのだ。