演 目
桜の園
観劇日時/05.6.8
劇団名/tpt51
公演回数/ベニサン・ピット20th
作/アントン・チェーホフ
新版テキスト/木内宏昌
演出/熊林弘高
美術/グレタ・クオネ
照明/笠原俊幸
衣装/原まさみ
ヘア&メイク/鎌田直樹
音響/長野朋美
振付/若松智子
舞台監督/鈴木政憲
劇場/ベニサン・ピット


サヨウナラ昨日、コンニチハ明日

 フライヤー(ちらし)は、薄いセピア色のモノクロでまったく同じ写真が二枚、豪邸らしき広間の斜陽の中で少女が泣いている情景が上下に並んでいる。
上の写真には、オレンジ色の小さな隷書体で「サヨウナラ、昨日」、同じく下の写真には同じ色同じ書体で「コンニチハ、明日」という語句が書かれている。
まさにその通りの芝居であり、良い戯曲と良い役者たちが創ると深い味わいのある2時間が創出される典型だ。男女・年齢・立場、それぞれが違う人たちが、苦しんだり悩んだり微かな希望を持ったり……
初めのうち、ラネーフスカヤ(佐藤オリエ)はどうしてあんなに莫迦なんだろうと、同情もできないが、だんだん観てくると、それが実に愛らしく思われ、そうなるとこういう莫迦な部分は、きっと誰にもどんな人にでもあるんだと思うと哀しくも微笑ましくもあり、それが喜劇と名付けられた側面かもしれない。
井上ひさし氏は、「悲劇の定義は、人間より巨大な運命や神の意志というものがあって高貴な人間がその運命や神の意志に向かって戦う。敗れるのは分かっていながらそこを貫こうとすることで人間の凄さが出てくるとするのが一般的です。喜劇はそれとセットになっていて、主人公はだいたい普通の人間です。普通の人間でも知恵や機知の力でたいていの局面は打開できる。しかも『人生は一瞬だよ』というところに視点をおく」
演出家の木村快氏は、「tragedyは『運命劇』、comedyを『風刺劇』」と規定している。
似たような考え方が、喜劇というものの本質を語っているようだ。
黒を基調とした簡潔で抽象的な舞台装置は、中景のアーチ状の柱と梁だけに朱色のデコレーション、そしてその部分をシーンに応じて舞台の前景と後景とを大きな扉で仕切るわけだが、その扉がそのアーチ状の柱と梁と同じイメージで彩られているのが、いかにも古めかしく豪壮で、古い資産家の豪邸を巧く感じさせていた。
ラストへきて娘・アーニャ(=石橋けい)のジーパンTシャツ、そして何より学生のトロフィーモフ(=斎藤歩)の最初からボロボロのジージャン・ジーパン・スニーカー、金髪に細身の縁なし眼鏡が、この大勢の登場人物たちの、大時代な衣装群の中にあって、必ずしも物質的には豊かではないが、新しい未来を象徴して印象的であった。
後で聞いたら、このトロフィーモフのボロ衣装は、とんでもない高価なレア物だそうだ……
その他の配役は、
養女ワーリヤ=中川安奈/その兄ガーエフ=中嶋しゅう
商人ロバーヒン=千葉哲也/地主=真那胡敬二
家庭教師シャルロッタ=小山萌子/執事=山本亨
小間使い=板垣桃子/老僕=二瓶鮫一
若い従僕=矢内文章/浮浪人=由地慶吾