演 目
映画/天井桟敷の人々
観劇日時/05.4.28
制作/‘45年フランス
脚本/ジャック・プレヴェール
監督/マルセル・カルネ
劇場/シアターキノ


さよならだけが人生だ

 数々の映画賞やランクングで常にベストワンの栄誉に輝いていた伝説の名画を初めて観る。思えばこの映画ができたのが、僕が10歳のときだ……
40年代、パリ歓楽街の雑踏のヴアイタリティ、楽しさそして懐かしさ……その中に生きる芸達者な芸人たちの群像、おそらく昔日の浅草の雰囲気。
6人の男女、ピエロのパントマイマー・バチスト(ジャン・ルイ・バロー)、若い俳優・ルメートル、無頼派の作者・ラスネール、やくざ、モントレー伯爵、そして女は見世物小屋の美女・ガランス(アルレッティ)、座長の娘の美少女・ナタリー(マリァ・カザレス)。
これらの人たちの複雑に絡んだ恋愛模様。ラストシーン、カーニバルの雑踏で躍り狂う群集の中を去っていくガランスを、もみくちゃにされながら追いかけるバチストの狂気で突然静かに幕が下り、事実その野外風景に緞帳が下りて映画が終るのだ。つまり人生は芝居だというわけか……
そして、解決を示唆しない突き放し方は、「さよならだけが人生だ」という井伏鱒二を思い出した。
勧 酒/井伏鱒二
コノサカズキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」だけが人生だ
原典は唐末の詩人・于武陵の『勧酒』(読み下し文)
君に勧む金屈巵
満酌辞するを須いず
花発いて風雨多く
人生別離に足つ
『戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100』(文春文庫ビジュアル版=95年刊)には、この映画、まったく影も形もない……時代か。