演 目
絶対零度
観劇日時/05.4.18
劇団名/劇工社ルート
公演回数/第1回公演
作/鐘下辰夫
演出/伊藤裕幸・演出助手/高田学
舞台監督/松下宏・高田光江
舞監助手/大友理香子
舞台美術/宮崎義人(劇工房燐)
照明/伊藤裕幸
照明操作/辻和範(ライブ)
音響効果/山田健之
小道具・制作/加藤亜紀
制作協力/遠藤千帆・石田千景・松下音次郎
劇場/シアター・コア


ラストで曙光がみえた鐘下戯曲

 教育熱心だと評価の高い中学の教師・宮田(=伊藤裕幸)は、校則破り常習の女子中学生を行きがかり上、殺害し、一審死刑、情状と嘆願書により上告裁判中。
殺された生徒の父親はデパート外商の瀬川(=飯田慎治)であり、その妻・圭子(=田村明美)は精神異常の状態で、何度も面会して宮田に死刑の受容を迫る。
宮田は校則というルールを外れて回復不能に陥った娘に全面的な責任があり、自分には弁護される権利があると主張する。圭子は、宮田の行為は行き過ぎであり被害者の権利を盾に、しつこく死刑の受容を迫る。
親の教育が悪くて崩壊した家庭であると噂される夫婦、自分たちは正しいし、被害者なのだからあくまで逃げないと主張する圭子、やり手セールスマンの瀬川は会社も辞めさせられ自殺を図る。
ルールと権利の矛盾に関するデスカッションドラマであり何が正義なのか見る側によって変化する。劇工舎の舞台は、期待以上にメリハリと緩急の効いた表現で緊迫のシーンを相次ぎ見せる。
一つの舞台装置を、刑務所の独房を暗示する面会室と瀬川夫婦のマンションの居間として二つの場面に使うのだが、独房に居るはずのない夫の瀬川が居たり、瀬川夫婦のマンションの居間に死刑囚の宮田が居たりするのは、意図はわかるとしても、慣れないと分かりづらいのではないか? 装置や照明・音響がリァルなので、そういう表現が違和感を醸し出して混乱する。
動きの少ないこの舞台では音響効果が大活躍で、リアルな大音響を響かせて、それが登場人物たちの心理を拡幅するのに大きな効果を発揮している。
独房の重い鉄の扉の閉まる陰気な金属音。風鈴の涼やかな音。雷のクレッシェンド。雨。蝉の暑苦しい鳴き声。などなど、閉じ込められて行き場のなくなったそれぞれの三人の心境だ。
劇団『ザ・ガジラ』初演の、絶望的なニヒリズムに較べて、ラストシーンに、やや曙光が見える予感があったのは鐘下戯曲としては珍しい。ただしその圭子と宮田の関係の変化が唐突の印象ではあったが……
飯田慎治と田村明美の迫真の演技に較べて、伊藤裕幸は計算の見える意識的な演技。伊藤の演出力は評価できるが、演技者としては冷めた眼が邪魔をする。