演 目
長屋紳士録
観劇日時/05.4.16
劇団名/東京乾電池
公演回数/シアターZOO企画
脚本/小津安二郎・池田忠雄
演出/柄本明
劇場/シアターZOO


映画的人情喜劇

 まるで映画のシナリオをそのまま台本として使ったように、おそらくほとんどそのままに使ったのだろうが、ワンカット・ワンシーンが次々と変化して物語が進行する。
主舞台は、本舞台中央に置かれた四畳半くらいの平台と、そこへ象徴的な置き道具や小道具が二・三点運び込まれて、場面を暗示し話が展開する。
開幕の合図も、緞帳のように垂らしたスクリーンに、古い雨が降ったような画面に40年代のモノクロ映画のようなタイトルクレジットが映し出されて始まった。
柄本明という人は緞帳が好きなのだ。『授業』も『夏の夜の夢』も、小さな舞台に似合うような可愛らしい緞帳が下がっていたのだった。
第二次世界大戦直後の苦しい生活を余儀なくされていた東京下町の長屋の住人たち。苦しさゆえの世知辛さが、次第に性善説的人間関係に変化していくというのか、人間本来のあり方に戻っていくというような過程が、ユーモァと微かなほろ苦さを伴いながら、軽快に1時間45分を堪能させる。
ほとんど台詞のない坊やが多分、女優が演じたのだと思うが、実にリアリティがあって楽しめた。
だがその坊やの一時的な養い親となる小母さんと、息子の出世を願っている薄幸の別の小母さんが、同じ役者が二役で演じたため、混乱したのはちょっとマイナス。
時代考証に狂いがあったけれども、それはあまり気にならず、騙したり怒ったり疑ったり頼ったりしながらも結局、人間って元々良いもんだなあとシミジミ感じながら、もうああいう古き良き時代には戻れないのかなという懐旧の想い。
若い人はどう感じるのだろうかなどと思いながら、「東京乾電池」一行の、ほのかな暖かさを楽しんだ一夜なのであった。