暴雪圏 寄稿  伊東 仁慈子
 観劇日時/18.2.21 14:00~15:40  劇団名/札幌座  作/佐々木譲  脚本・演出・作曲/斎藤歩  演出助手/櫻井幸絵  舞台美術/高田久男(<有>セットアップ)  照明/熊倉英記(<株>ステージアンサンブル)  舞台監督/尾崎要(アクトコール<株>) 大道具製作/アクトコール<株>  小道具/林千賀子  衣装/磯貝圭子  音響オペレーター/佐藤健一  翻訳/横尾美穂(英語)・齋藤道博:蔣佳熹(台湾語)・木村典子(韓国語  字幕オペレーター/高木未来  音楽制作/北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻  トランペット=吉尾夢夏・ホルン=芦澤龍一郎・トロンボーン=高島崇  ユーフォニアム=板垣侑里・チューバ=長尾保郎  宣伝美術/若林瑞沙(スタジオCOPAIN)  制作/横山勝俊・富岡尊廣(札幌座クラブ)  プロデューサー/木村典子  劇場名/シアターZOO  出演者/斎藤歩・磯貝圭子・林千賀子・山本菜穂・熊木志保・菊池健・  山野久治(風の色)・山田百次(ホエイ・劇団野の上)・  納谷真大(イレブンナイン)・町田誠也(words of hearts)・  有田哲(クラアク芸術堂)

暴雪。まるで獰猛な獣が束になってかかってくるように

 その日、爆弾低気圧の接近による暴風雪で道路が皆、閉鎖された。何がおころうと誰一人、警察すら出動できない状況であった。そういった中、それぞれ屈託をかかえた男女7人が、十勝の平原を貫く一本道に建つペンションに閉じ込められる。
 殺人強盗犯。出会い系サイトで不倫関係になり、それを清算しようとする人妻と執着する男。義父を憎悪し家出した女子高生、彼女を手助けする青年。事務所から大金を持ち逃げした男。それとペンションのオーナー。
 歪んだ者、病んだ者、飢えた者、そういった人間の内奥に自然の猛威が重なると、もはや日常を通り越し何かが大きくずれ、臨界に達するのだろうか。
 舞台は常に雪を伴い次々にめまぐるしく場面転換される。演者にリアリティがあるので短いシチェーションの繋がりでも臨場感がある。
 原作では通奏低音のように存在している川久保巡査部長。扇の要であるはずが舞台では個性豊かな人々に紛れ込んでしまった感があり惜しかった。しかしラスト、客席に向かって真っすぐに向けられた銃口、巡査部長の射るような目、一瞬、怯むような気持に襲われる。撃たれたら即死だ。思ったと同時に心臓を貫くような銃声音、唯一彼の存在が光った一瞬。殺人強盗犯のあのチンピラはどうなったのだろう。
 同様に、原作では三人の登場人物を〝三つ子〟として演じた林千賀子は、それぞれの個性を軽妙に演じ分け舞台に弾みをつけた。
 それにしても403ページもの大作を、これほど入り組んだ人間関係をよく100分の舞台に仕上げたものだ。脚本・演出・作曲・出演の斎藤歩は何という人だろう! 数年の準備期間を経たそうだが、圧巻としか云いようがない、その豊かな才に畏れ入る。
 客電が落ち暗闇の中、哀切で深く心に染み入るような音が流れる。被さるように暴風雪の音。幕が開き、雪は紙で瞬時に虚構と思った。しかし中盤から、その雪は勢いを増し、更に増し、人間を翻弄する猛々しいものに変貌した。

松井・註
 以前からこの舞台を観たいと言っていたのに急病のために見る事が出来なかった僕の残念さを知った伊東仁慈子さんが、観劇の感想を書いて見せて下さった。
 僕は早速、伊東さんの了解を戴いて、上記の観劇記としてみなさんにご紹介することにしました。
 伊東さんに厚くお礼を申し上げます。有難う!