父と暮らせば
観劇日時/17.11.12 18:00~19:40 劇団名/MAM 作/井上ひさし  演出/増澤ノゾム 舞台監督/下澤要  音楽/奥田祐  美術/高村由紀子  照明/鈴木静悟 音響/西野輝明  衣装/佐々木青  衣装協力/有島由生  演出助手/植津恵 写真協力/種田基希  制作/MAM  制作スタッフ/佐藤美帆・兼平瞳・中島諒 劇場名/シアターZOO 出演/父=松橋勝巳  娘=高橋海妃

良い戯曲をキチンと上演した感動的な舞台

 期待通りというか、期待以上の舞台だった。それは戯曲自体が感動的なのだ。戦争がもたらす非人間的な悲劇を静かに糾弾する、この戯曲の真髄を的確に表現すれば、当然、この戯曲が持つ本質が観客の心を打つのだ。今日の舞台はそれが出来たと言うことであろう。
 ちょっと気になったのは、父親が亡霊として出てくるファートシーンがなく、雷雨に脅えた一人住まいであるはずの娘が押入れの戸を開けると、そこに父親が居て、何気なく日常的な雰囲気で、広島原爆投下当日の死の恐怖を語り合うシーンから始まったから、この父は実在の生きて元気な父親として視てしまう。
 途中の父娘の会話の中から、この父は実は実在していなくて、あの日に亡くなっていることが分かって、これは亡霊だと納得できるから別にどちらでも良いのかも知れないが、この舞台を色んな劇団で何回か観ている僕としては、やはり最初から亡霊であった方が、父娘の関係にもっと神秘的で離れられない懐かしい交流が感じられたような気がする。
 いきなり生身の父娘関係だと何か生臭い気がしなくもないが、でもそこが逆に魅力なのかもしれない。それはそれぞれの長短であろうか?
 良い戯曲をキチンと表現したら、こういう感動的で心に残る厚い舞台が出来るのは当然である。
 かつて観たこの舞台の記録を紹介します。強く印象に残った作品は思ったより多くは観ていないようだ。
 『続・観劇片々』第16号所載 07年1月20日「どもプロデュース」公演
 『続・観劇片々』第34号所載 11年9月29日「こまつ座」公演