第9回高文連空知支部演劇発表大会  主催/北海道高等学校文化連盟空知支部  主管/北海道高等学校文化連盟空知支部 演劇専門部  当番校/北海道岩見沢緑陵高等学校  観劇日時/17.9.21

 会場/岩見沢文化センター 中ホール

全国大会の地区予選として公開されたこの大会の審査委員長として、発表会当日と翌22日の合評会・閉会式・全道大会壮行式に参加した。ここではその5高校の舞台について報告します。

Tripli Egg

 上演時間/9:50~10:50
 高校名/岩見沢緑陵高校 作/岩見沢緑陵高校 演劇部
 音響・照明/浪岡寛美  顧問/浪岡寛美
 出演/あかり=中野杏華  ゆかり=杉山夢咲  シュウ=清水脩佑

殆んど会話だけの舞台の中に、思春期の男女の「勉強とは?」「恋とは?」「生きるとは?」「友情とは・ 兄弟姉妹とは?」などの様々な思いが曝け出される。起承転結のキチンと整った作品。 少年少女らしい生き生きとした会話だけど理屈っぽさが強く浮き出て、心理の深みが表現できていない。 特に姉・ゆかりが普段は引き籠っているのに、突然に喋り出す変化の切っ掛けが分かりずらく、何か突然変異に見える。 この作品は戯曲よりも小説にした方が面白そうだ。

二律背反

 上演時間/11:00~12:00
 高校名/滝川西高等学校
 作/加藤識泰  舞台監督/砂原圭吾  顧問/野村くみこ・加藤紗耶
 出演/
  渡邉美空・桑原伽奈・池田亮・高橋美夕・杉岡未悠・
  佐藤秀則・高林江里・ 永田祐佳子・能田桜・砂原奈々・佐久間柚衣
 (台本の役名と配役が全く一致しないので出演者名だけ記しました)

全道大会予選に出たい演劇部の苦悩話。「やらなくちゃ」と思う心、「全部を捨てて伸び伸びしたい」と思う心。この二律背反が人生かも知れない。年齢を重ねるに従って、この背反を操縦して生きて行く。 これを観ていて、かつて観た高校演劇の「レンタルロボット」や「学校でなにやってんの」などの良い舞台を思い出していた。何か共通点があるのだろうか?

外典 鼻から牛乳

 上演時間/13:00~14:00
 高校名/滝川高校定時制
 作/村上孝弘  潤色/滝川高校定時制演劇部   音響/嵯峨山彩夏
 顧問/奈良岡英男・上野美冬
 出演/
  売れなくなった夫婦万歳(腹巻ぽん太=三上翔太・腹巻きょん太=伊藤美有)
  マネジャー・さっちゃん(=土井敦史)
  興行会社の社長・吉村良夫(=新井颯)
  ヤクザの手下・天童サブ美(=中原麻里)

「下典」とは聖書の正典以外の重要な文書のことをいうし、仏教では仏教以外の教え(外道)を説いた書を仏教の側から呼ぶ語であるという。つまり本道でないのだからこの舞台は一種のパロディかとも思われる。「鼻から牛乳」は嘉門達男のギャグ歌謡のタイトルだから、やっぱりエンターテインメントの舞台だろうって思って観た。 この事については後の審査過程の所で詳しく述べるが、売れない芸人たちの田舎街での侘しい日々。底辺の生活の中で何とか上昇しようとする心意気が切ないのだが、同じことの繰り返しが少しダレて退屈する。エンタイテインメント性の力強さと表現力の技術は抜群だ。

ステキな舞台の作り方

 上演時間/14:10~15:10
 高校名/滝川高校全日制
 作/にへいこういち   演出/中谷地杏  音響/汲川桃子
 舞台/岸ひかり  照明/滝沢一巴 ダンス/廣野峻祐
 道具/全員  顧問/にへいこういち・村上孝弘
 出演/シロウ=廣野峻祐 コウヘイ=谷侑輝  キョウコ=中谷地杏     部長=辻内若菜  ユズ=櫻庭優月   ユウコ=佐々木優那

禁断の恋愛に憧れる夢想の中のシロウ。思春期最大の関心事。そしてそれを乗り越えて行こうとして「劇創り」に対する前進力。物語の核心とエンターテインメント性が上手く噛み合って「ステキな舞台」が出来た。

ひらけ、トラウム

 上演時間/15:20~16:20
 高校名/芦別高校
 作・演出/熊谷花菜  舞台監督/野上耶玖  音響/花井彩奈・鎌田峻輔
 照明/菅谷遥樹・須藤七海・薮歩 道具/山崎開陸・野上耶玖・島倉大将
 衣装/黒田尚美・菅谷遥樹・吉田真寿・塚川風歌
 顧問/落合良子・藤井晃里
 出演/シオリ=坂野下葵  サヤカ=伊藤瑞稀  ハルカ=平田悠李耶      ミサキ=岡田明莉  案内人=熊谷花菜  兄=熊谷香兵

トラウムとはドイツ語で夢の意味らしい。若い人は知り得た新しい語句や表現をすぐ使うから馴染みがないと調べなければならないがお蔭で新しい知識が増える。 兄の死に責任を感じてお詫びに自殺したシオリ。ブラック企業の辛さに耐えかねて自殺したOLのサヤカ。生来の病身の為に前途を悲観して自殺したハルカ。家族旅行中に事故で死んだミサキ。この4人がこの世とあの世の中間で案内人に生と死について喚問される。 生きていても前途がないからこのまま死ぬというサヤカとハルカ。シオリは悩む。まだ生き返るチャンスは自分次第だ。死んであの世から家族を見守るというミサキ。最後にシオリは生き返ることを決める。 生と死の問題は深刻過ぎて堅いから、案内人にもうちょっとエンタメ性を強めた方が良かったかなとも思うが、そうなると悪ふざけになって逆効果かも知れない。難しい所だ。

 
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以上で5作品の感想を述べたが、次に審査委員会で討論した経過を紹介する。 1作品の持ち時間は、準備と後片付けを含めて1時間10分なのだが、審査員はその作品の上演正味1時間だけを観ていれば良いから純粋の観客でもある。 各作品が終わるごとに控室に戻って今観た作品の感想を語り合う。これは出入り時間を引いてわずか7・8分くらいだけど、真剣に意見を述べあう。 そして5作品すべての上演が終わった4時半から6時までの1時間半ほどの審査会は、上川地区から富良野高校演劇部顧問で国語科教師の土野茂大さんと、十勝地区からは帯広柏葉高校の同じく演劇部顧問で国語科教師の天野俊浩さんのお二人の審査員と僕との3人で討論をした。 最優賞は一気に3人の意見が一致して、滝川高校全日制の、にへいこういち顧問・作「ステキな舞台の作り方」が、すんなり決まったのだが問題は2位だった。 滝川高校定時制の村上孝弘顧問・作「下典 鼻から牛乳」を、お二人は推薦されたが、僕は別の芦別高校の熊谷花菜・作「ひらけ、トラウム」を推した。 僕は、「劇」とは「虍」(トラ)と「豕」(イノシシ)とが、「刂」(カタナ)で闘う、つまり葛藤という側面と、「芝居」という野外で楽しむことから発生した「エンターテインメント」の二つの要素が混然と巧く混じりあって表現されたものであるという信念をもっている。その観点から視ると、この「下典 鼻から牛乳」は「芝居」の要素が強すぎて「劇」が見えにくい。 僕が押した「ひらけ、トラウム」は逆に「芝居」の要素が弱いのだが、ラストシーンの生への願望が衝撃的だった、と主張した。お二人は「死」を肯定しているのではないか、僕は逆にラストシーンで強烈に「生」に向かっていると主張した。 何度も主催者とも相談して異例の、2位である優秀賞が2作品という結論を出して下さったが気持ちの良い結果だった。 だが、そもそも芸術作品に優劣は漬けられないのが本当なのだ。多数決が本当なのかどうなのか? いつも持っているそういう疑問が今回も頭をもたげざるを得ないのは当然だっただろう。 全体に演技力は抜群だ。器用なんだろうか? 二人の審査員の先生たちは、高校生らしい教育的見地から観る必要性を論じられるのが僕にとってちょっと新鮮だった。 台本やプログラムに「キャスト」は書かれているのだが「スタッフ」がキチンと書かれていたのは、滝川高校全日制の「ステキな舞台の作り方」と、芦別高校の「ひらけ、トラウム」の2作品だけだったので、僕は責任体制をキチンとさせなければならないと強調した。


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高校演劇の空知地区大会がたったの5校というのも実に侘しい。しかも以前は北と南の2地区に分かれていたのに。なぜ高校演劇はこんなに衰退したのだろうか?