あっちこっち佐藤さん
 観劇日時/17.8.17 14:00~16:00  劇団名/ELEVEN NINES   上演形態/札幌演劇シーズン2017夏 レパートリィ作品
 原作/レイ・クーニー  演出/納谷真大  照明/上村範康  音響/大江芳樹  舞台美術/高村由紀子    舞台監督/上田知  撮影/クスミエリカ  音楽/best sunset  映像/古跡哲平・モンマユウスケ  宣伝美術/小島達子  
 制作/ELEVEN NINES  ゼネラルマネージャー/カジタシノブ    企画制作/ELEVEN NINES
 劇場名/かでる2,7
 出演/
  佐藤ヒロシ=藤尾仁志(Wで明逸人)        南と北の2軒のマンションに棲んで重婚している
    個人タクシーの運転手   佐藤タロウ=江田由紀浩(Wで納谷真大)
  ヒロシの隣人でヒロシに借金の負い目   佐藤サチコ=小島達子
  北のマンションでヒロシの妻   佐藤カズコ=小野マユミ
  南のマンションでヒロシの妻   佐藤ハナコ=広瀬詩映莉 タロウの妹
  佐藤巡査部長=小林エレキ 北署の巡査   佐藤記者トリオ=石川哲也・由村鯨太・田中春彦
          (某紙の同姓の記者たち)   佐藤巡査=梅原たくと(Wで菊地颯平)  南署の巡査   北のマンション大家・佐藤=澤田未来
  南のマンション大家・佐藤=上總真奈   街の佐藤さんたち=坂田亜里沙・宮田桃伽・坂口紅羽・城田笑美・
  ヴィンセント藤田・大作開・後藤七瀬

弱い人間の善意と誠実

本人には悪意はなく、成り行きで重婚していた佐藤ヒロシという個人タクシーの運転手が居る。その彼ヒロシが行きがかり上、暴力事件の仲裁に入って逆に大怪我をしてしまう。もちろん警察沙汰になり新聞記者たちが騒いだ。
ヒロシは南と北の二つの我が家に、職業柄で時間を正確に守って平等に行き来していたのだが、この突発事件のために南の我が家に約束通りの時間に行けなくなってしまい周章狼狽する。彼の隣人・佐藤タロウはヒロシから多額の借金をしているからヒロシの言うことには絶対服従だ。
ヒロシもタロウも警官も記者も何故か全員が佐藤姓だから、混乱は拡大するのだが、逆にヒロシは同姓を利用してうまく逃れようと画策する。その大騒ぎの一部始終を北の家の居間と南の家の居間を舞台の上下(カミシモ=左右)に分けて入り乱れながら2時間に亘って話が進む。
初演(14年8月観劇。46号所載)の時は、単なるドタバタ・アチャラカ笑劇か、「業の肯定である落語の立体版」だとしか思えなかったのだが、今日の舞台は弱い人間の善意と行き違いを何とか穏便に済まそうという周りの人たちを含めて努力する心が感じられて初演よりは随分と深みのある舞台を感じる事が出来た。
それも言ってしまえば「人情喜劇」と切り捨てる事も可能だけれども、これだけ切羽詰まった状況での厳しさの中では、人間の誠実さの本性が感じられるともいえるのかもしれない。
終演後ロビーにいた江田由紀浩さんに「台本に変化がありましたか?」と尋ねると「ええ、各部分でセリフが改作されています」とのことだった。なるほどグレードアップされていたのだった。