忘れたいのに思い出せない
 観劇日時/17.7.29 15:00~16:00  劇団名/yhs  公演回数/37th  
 脚本・演出/南参  舞台美術/高村由紀子  舞台監督/石川翔太  照明/大橋榛名   音響/橋本一生     楽曲制作/川西敦子  演出助手/佐藤杜花 宣伝美術/八十嶋悠介  制作/水戸もえみ  受付スタッフ/佐藤紫穂・中村友紀・竹内麻希子・銅住早苗  
 劇場名/コンカリーニョ

次々と展開する人生の象徴的な断面

先ず人間関係を示しておいた方が分かり易い。センリ(=福地美乃)は87歳の寝たきり老母であり、その亡夫・マサヒコ(=小林エレキ)は、センリの夢の中にだけ出てくる。その息子・ガンマ(=長流三平)は商社マンであり妻は居ない。その娘・トオル(=曽我夕子)は独身ながら妊娠している。胎児の父親はゲンブ(=櫻井保一)でセンリのヘルパー・タマミ(=宮本暁世/Wで紀戸ルイ)に付いて来た見習いヘルパーで、センリの寝室で偶然にトオルと出会う。ゲンブの同級生でやはり見習いヘルパーのマスト(=柴野崇大)も一緒に来ている。いい加減な市福祉課課員・カヤモリ(=能登英輔)と、怪しい宗教の宣教師で運営する施設へのセンリの入居を勧めるチヨ(=最上怜香)たちの9人が登場人物である。
「忘れたい」と「思い出せない」とは矛盾しているようだけど「忘れたいこと」自体を「思い出せない」の狭間に行き止まりの状態なのであろう。
寝たきりの老母・センリを巡って対立する男やもめの父親・ガンマと、胎児の父親とは縁を切ったはずのガンマの娘・トオル。だがセンリに育てられたトオルの祖母・センリに対する愛情……
トオルの相手の男・ゲンブは偶然にセンリのへルパー見習いに来ていてトオルと再会したのだが、そのゲンブは今は上司のタマミを懐妊させている現役の恋人同士だ。
センリの貯金を巡るガンマとトオル。センリの宝飾品を盗もうとしたゲンブとそれを止めようとしたマストの対立。マストは前科の弱みをゲンブに握られている。
死に向かって一直線のセンリと、新しい生命を授かったトオルの対比……センリの唯一の生への想いは亡夫・マサヒコとの想い出か?
それらの緊迫した何日かをセンリのベッドの周りで激しく回転して生の象徴的な断面が次々と展開する。
前号でご紹介した、イナダ組公演『シャケと爺と』の、老齢に突き進む我が身の現状につまされる感情を、この舞台からも感じられた。

登場人物の名前が特殊でしかも男女の区別が付きにくく、それは何故そういう名前にしたのかちょっと分からない。きっと何かの意図がある筈だと思うのだが……