酔っ払いと椅子と宇宙人と  観劇日時/17.5.10 20:00~21:20 劇団名/シアター・ラグ・203
作・演出/村松幹男  演出補/田中玲枝  音楽/今井大蛇丸  音響オペレーター/久保田さゆり  照明オペレーター/瀬戸睦代・村松幹男
劇場名/ラグリグラ劇場

日常生活から一瞬、飛び立つ夢

長い間、下級の席に甘んじている、うだつの上がらないサラリーマン(=平井伸之)が今日も酔っ払っていつものように自宅近所の公園でおだを上げている。
ウトウトとしてフト気が付くと、いつの間にか目の前に木製の椅子がある。それも小学生が教室で座るような椅子としては最下等のものだ。酔っ払いはその椅子に人格を感じ、しかも自分と同じ下層階級の存在を感じてグダグダと我が身の切なさを話しかける。
フト気が付くと、その椅子は二つになっている。また一拍置くと三つになっている。自分と同じ格というか同じ立場の存在が、どんどん増えて行く。
でも自分は幼い頃、宇宙に憧れていたはずだ。今日の公園は星空で様々な星座が見事に見えている。
酔い心にフト気が付くと見知らぬ女性(=瀬戸睦代)がいる。彼女は宇宙人を名乗る。信じはしないが昔の話をしているうちに、宇宙人を名乗る女性は自分の星へ行こうと誘惑する。現実の家庭に不満も無く家庭を大事に思う酔っ払いも、その誘いの魅力には勝てない。
次に気が付くとまた元の椅子のある所に居た。自分の場違いな妄想を葬るべく、その椅子に煙草を線香代わりに立て、自分の免許証の写真を飾り飲み残しのワンカップを置き、椅子の後ろの背凭れの枠から顔を出し、それは正しく本人の遺影そのもので笑ってしまった。
最後に本当に目覚めたとき、駅から電話したのに1時間も帰宅しない酔っ払いを心配した妻(=田中玲枝)が迎えに来てハッピイ・エンドのホームドラマ。

          ☆

日々の下積みの生活から一瞬、飛び立つ夢を見る、その夢を酔いに託して描いた人生哀歌。
1時間20分に亘って酔っ払っているこの男の喜怒哀楽と言うか、自分の生き方の確認と言うか、儚い望みというか、それらの全てがこの酔いの中に具体的というか象徴的というか、全てがこの一夜を観ている人にとっても我が事のように感じられる。
この酔っ払いの1時間20分の幻想は、底辺に生きる人々の一つの確認であり覚悟であり、人生ってそうだよなというような諦めと同時に再出発への切っ掛けでもあるようだ。
一つ気になったのは、この宇宙人の存在が生臭すぎる感じだ。もっと透明感が欲しいと思ったが、逆にこの生臭さがリアルにこの酔っ払いに現実感を呼び覚ますのだろうか。