ハルシオン・デイズ
観劇日時/12.4.22 14:00~16:00 劇団名/北翔舞台芸術4年目公演 公演回数/VOL.7
作/鴻上尚史  演出/村松幹男 照明/藤原達也 音響/久松祐貴  
音楽/高橋郁也 宣伝美術/佐藤李香
劇場名/北翔大学北方圏学術情報センター ポルトホール

小春日和に見た自己犠牲を覚悟する夢

「ネット上の自殺相手を求める書き込みにつられて、4人の男女が集まった。……」というフライヤーの惹句を読んで、これは以前に観たことがある舞台だと思い込んだ。けれども、このタイトルにはまったく記憶がない。何となく釈然としないままに、素の気持ちで今日の客席に座った。
何年か前のある地域でのテロ事件で多くの犠牲者が出た悲劇の義憤に燃えた原田(=小栗太良)は、義侠心が高じて「人間の盾」になろうと決心し、ネットで同志を求める。
集まったのは、その自殺願望は一種の精神病だから止めようとするカウンセラーの谷川(=金子舞香)であり、膨大な借金を清算して家族に迷惑を掛けないように生命保険を掛けて参加したホモの橋本(=池田拓斗)と、谷川の心の中だけに存在する、すでに死んで居る幽霊の大学生・平山(=松永颯)で、平山は谷川以外の他の3人にはその存在が分からない。姿が見えず声も聞こえないから、谷川の別人格とも見える。
原田の棲むマンション6階の窓の下に見える保育園の傍に有る化学工場が、原田によるテロの標的であり、自分たちは「人間の盾」になってテロの爆撃からこの保育園を守るのだと言う。
原田の提案によると、3人で浜田広介童話の『泣いた赤鬼』を、「赤鬼」「青鬼」そして「村の人」の3人を登場人物にした劇にして、攻撃の予定日に保育園へ公演に訪れると言う計画だ。
単に死ぬだけだと思っていて初め渋っていた橋本も、亡霊の平山も、だんだんと参加してくる。平山の参加は谷川にしか分からないのだが……
原田は公演中に爆撃されて「人間の盾」として死ぬことを望み、谷川はそれは妄想だが、それが原田の心安めになるのなら、という理由で参加する。
気が付くと原田は全ての記憶を失っている。だが改めて『泣いた赤鬼』の稽古を再開する3人……何時の間にか平山は居なくなっていた。
簡素な、言ってみれば何も置いていない素舞台で、4人の俳優が2時間の単純な物語を延々と演じると言う大作を少しも飽きさせない演技の実力に魅入らされた。
橋本と平山はダブルキャストで高橋郁也・下川祐希が日替わりで出演する。
「ハルシオン・デイズ」とは様々な意味を持ち、特に商品名などの固有名詞に使われているようだが、原意はおそらく「小春日和」とでもいうような感じだろうか。

          ☆

さて僕の記憶では、屋内ではなく山中での集まりだと思ったし、そもそも『泣いた赤鬼』の劇創りの物語は全く記憶にない。そこで「続・観劇片々」の第一号から目次をずっと眺めていくと、「Sui Site」というタイトルにピンときた。
08年6月19日「コンカリーニョ」で観たイナダ組の新作、イナダ作・演出の「Sui Site」だ。(以下は「続・観劇片々」21号所載より抜粋・要約)
「Sui Side」 には「自殺」という意味がある。そしてsite とはインターネット上での一つの目的を持った人たちの集まりとでも言おうか? つまりSui Site とは、自殺を目的としたインターネット上の集まりとでもいう造語であろうか? 人の来ない山中のこの廃墟で集団自殺を実行するべく、最後の一人を待ちながら4人は着々と準備を進める。5人は自殺に成功し安藤だけが生き延びるが、ラスト・シーンは、安藤とみさきの安らかな語らいだ。しかし、これは全てが終わった後のハッピー・エンドじゃない。

三つのエピソードを絡めながら、ラストに繋がるという技巧をもって、現代の世相の裏側をエネルギッシュに描き出し、エンターテインメントの側面をもイナダ組の特徴で余すところなく表現した最近の快作であった。