えほんがたり ~大人のための絵本ライヴ~ 観劇日時/17.3.25 19:00~20:50(途中10分の休憩) 主催/キルテングビー 選本・総括/万代いづみ 場所/雑貨カフェバー〝キルテングビー〟

世の中にはたくさんの、それこそ無数とも言えるほどの、いわゆる絵本が出回っている。絵本は基本的には子ども達が見て読む本だと思っている。ところが、その中には大人が見たり読んだりしても充分どころか大人にこそ読んで欲しい絵本がたくさんあることに気が付いた〝キルテングビー〟の万代いづみさんが、そういう絵本を、市内の演劇で活躍する現役の若い俳優さんたちを起用して「えほんがたり」というライブ公演を始めたのが去年の3月、そして今回の第2回公演が上演された。
具体的には絵本だから、その絵をスライドで映しながら、とか、大きな紙に描いたものを見せたり、小さな客席だから大型の絵本だとそのまま見せたり、いろいろな方法で演じる。それを富樫淳一氏のピアノと山上正樹氏のギターが柔らかく激しく包み込む。さて充分な期待を持って客席に座った。
様々な物語を色々な手法で表現した絵を見ながら楽しむのが絵本だ。しかも文字を読むのではなく、演技者が丁寧に心を込めて読んでくれるのを聞きながら絵を見ていると、自分で文字を読むのとは違ったたっぷりとした贅沢な感じが楽しめる。そして一冊一冊には、それぞれ様々な寓意がある。

大自然と文明との矛盾

今日、聞いて観た10冊の絵本には、もちろんそれぞれの意味するところがあるのだが、僕は勝手に全体を通して「大自然を侵食する人間の文明」というような寓意を感じたのだった。

ぼくのともだちおつきさま

作・絵/アンドレ・ダーハン 訳/きたやまよう
語り手 岡部京子

月と友達になった少年の幻想。様々な日常生活の中の喜び怖れ驚きを共有する初めての経験。子どもの時はそういう思いを持つのだが成長するにつけて現実に目覚めて行く。それが自然なのだが、大人になっても月と友達になる幻想は捨てたくない。そ
れは月だけでは無く、あらゆる大自然との友達になれる夢も持てるかもしれないから
だと思うのだ。♪ ピアノ演奏がとてもマッチしていて純粋感が心に沁みる。

 

かみさまはいる いない?

文/谷川俊太郎 絵/清川あさみ  
語り手 万代菜月

人間って神様が創ったのだろうか? それとも神様って人間が創ったのだろうか? 不思議で興味深い疑問を語り手の無感情のような懐疑的なような話し方、特に「かみさまにせかいをまかされて にんげんたちはこまっている」という皮肉なラストシーンが不思議な存在感と疑問とを上手く表現している。これも神と人間=大自然と文明との関係の象徴だろうか?

 

ちいさなあなたへ

作/アリスン・マギー  絵/ピーター・レイノルズ  
訳/なかがわちひろ  
語り手 塩田美香
母から娘へ、そして娘からその子への命の連鎖の喜び。これも人の力の小ささを自覚する大自然への賛歌。ここまでの3話はピアノの雰囲気がとても良い感じだ。

 

しろいうさぎと くろいうさぎ

文・絵/ガース・ウィリアムズ 訳/松岡亮
語り手 嶋厚志・岡部京子・佐藤武嗣

白うさぎとの永遠の仲を願う黒うさぎ。すべてを受け入れる白うさぎ。ハッピイエンドの物語。何事も一生懸命にやれば叶うお話。

 

100万回生きたねこ

作・絵/佐野洋子
語り手 佐藤武嗣

次々と変わる飼い主に満足せず、その度に死んだ猫。野良猫になって初めて自分の意志で好きになった白猫と家族を持ち幸せな一生を共に終える。自然との共栄。

 

星の王子様

作/サンテクジュベリ  訳/池澤夏樹  
語り手 希望する観客が、その場で参加        
希望の観客が交代で指定の部分を読むのだが、全員が演技経験者なので逆に上手に読もうとする意識が強すぎて格好を付け過ぎてしまった。いささか白ける。

 

プログラムに無いサプライズ!
バラいろのきつね

作/古川厚子  絵/渡辺貞之
語り手 岡部京子

昨年の暮れに長期療養の結果亡くなった古川厚子が生前に創作した童話にワンちゃ
ん(=渡辺貞之氏)が挿絵を書いてくれて今日公表した。
幼児期にイノセンスだったバラ色のキツネは成長するにつれてちやほやされて増長する。綺麗な毛皮を求めた人間に捉えられて撃ち殺されて皮を取られる。良くある寓話だがワンちゃんはイソップだと言っていた。そのワンちゃんの絵2枚。 

  

 

ぼく おかあさんのこと……

作・絵/酒井駒子
語り手 宮田哲自

母親のすべてに反感を持って家出した男児。忘れ物を取りに家へ帰って母に抱かれて生き返る。親子の基本的なあり方がほのぼのと描かれる。
この母子の愛情が、この語りによってきめ細かく強く柔らかく表現されて、眼で読むのとは違った強い説得力がある。

 

おおきな木

作・絵/シェル・シルバァスタイン  翻訳/村上春樹
語り手 塩田美香

大自然の営みと、そこに生きる人間。自然と人間の文明との調和と矛盾。
原題は『The Giving Tree』。樹木の贈り物。
力強い語りに一人の人生が生きている。

ビロードのうさぎ

作/マージュエリィ・W・ビアンコ  絵・訳/酒井駒子
語り手 佐藤自真

作り物のうさぎ。その物質であるうさぎに生命を視る。物体も生きているのだ。自然の中に生命を視る人間。
この物語も、やはり語り手の訴求力が強く、目で読むのとは違った魅力が味わえるのだった。