Return the favor  
観劇日時/17.1.29  13:00~14:20 上演団体/練庵合同公演  参加劇団/旭川ステージワーク・劇工舎ルート・Tom Tom-Kiror・ 劇団東京都鈴木区・小劇場本舗・アトリエペチカ 脚本/赤玉文太  演出/高田学   制作/みうら沙絵 照明/豊島勉   音響/高田光江  宣伝美術/ナシノツブテ  劇場名/旭川市 練庵

世代間の暖かい交流だが印象が弱い

「柳田生命科学研究所」という、いかにもいかがわしい「スピリチュアル」と称しながら、その実、無責任な人生相談を営業している所があって、その所長である父親と母親はすでに交通事故で他界し、今は長女の寧子(=三上和世)とその弟の真琴(=長谷周作)で経営していた。真ん中の次女・燈子(=三橋とら)は何故か東京へ出稼ぎにいっているらしい。
そんなある日、この研究所へキノシタと名乗る若い女性(=山本千草)が訪ねて来るが姉弟は、お得意様来訪とばかりにチヤホヤする。だがキノシタは「実は柳田所長のご紹介で参りました」という。
姉弟は突然に亡くなった父母に対して様々な想いが燃焼し切れなく、言いたいことがたくさんある。キノシタを通して亡父の亡霊(=松下音次郎)が現われそれが見えて聞こえるので、親子の心の交流が始まる。
世界を隔てた世代間の遅ればせながらの交流が危うく成立してゆく物語は、今の時代に暖かい心をじんわりと流し込む効果は大きいし、隣席の若い女性客が盛んに爆笑し、客席も常時さざ波のような笑声につつまれていたのは、この親子の遅かった交流に静かな喜びと嬉しさと安堵とちょっとしたチグハグさに対する大きな暖かい反応だったのだろう。
現実と霊界との交流だからリアルな描写は出来ない。そこをキノシタの通訳的演技はスムーズになっていた。

          ☆

以上がこの舞台に対するプラス反応なのだが、逆にマイナス反応も沢山あり、それを箇条書きにつらねてゆく。
舞台の雰囲気が良くない。三方が暗幕で囲われ5脚の椅子は黒褐色の木箱なのは象徴的とも言えるかもしれないが、安易な間に合わせとしか見えない。イカサマ研究所の雰囲気を創るためには何とかパネルとか少なくてもソフアとか配してそれらしい設定が欲しかった。
演技者たちはリアリティを強く意識したのだと思うけど、それが逆に作り物っぽい嘘の演技になっている。いかにもお話を演じていますよという感じが強く創り手の思惑とは逆の印象を与えている。
話の流れが全体に緩くダラダラと過ぎて物語のメリハリ、つまり大事な所の強調度が弱く、うっかりすると何となく次の展開に移っている所が何か所か散見された。
つまり一言でいうと、薄味で印象が弱い舞台だったと言える。

          ☆

今日の劇場である「練庵」という小劇場には強い思い出がある。05年9月に、この「練庵」で劇団「劇乃素」が上演した『天守物語』だ。
『天守物語』は色んな劇団の舞台を、96年「はみだし劇場」、98年「ク・ナウカ」、99年「ひとみ座」の3本、その後にも09年「平常一人芝居」、12年「WATER33-30」の2本で「劇乃素」を含めて合計6本を観ている。
その中でも「ク・ナウカ」は東京・増上寺の広大な境内の本堂を巡る縁側風の囲み台とその階段を舞台にしての野外劇。日本情緒の濃いこのお芝居はこの野外の舞台がとてもマッチしていて、富姫を演じた女優・美加里の印象と共に忘れられない。(『観劇片々』第3号所載99年1月刊)
そしてもう一つがこの狭い空間で演じられた「劇乃素」の『天守物語』だ。
『続・観劇片々』第10号(05年11月刊)に「小さな密室に閉じ込めた異空間」と題して書いた長い文章の中から一部を抜粋してご紹介します。
天守閣の五層階の異空間を真っ黒な布と紙で覆った狭い空間に閉じ込めて、その雰囲気を表現した。何も装置らしいものは造らずに観客の想像力にすべて頼ったことが却って茫漠とした広がりを感じさせたのであった。
そして一点豪華主義のように、衣装にはとことんこだわり、全体が統一感のある、豪華な衣装でまとめたのが、もう一つの成功の要因であろうか。

大事な台詞の数々が、クローズアップのごとく浮き出てくるのも意外な効果であった。壮大な舞台装置の中では、そちらに目を奪われて、大事な台詞が拡散する危惧が少なくない。すべて真っ暗な狭い空間に閉じ込められた効果が効いたことによるのであろう。