誰そ彼時

観劇日時/16.10.15 17:00~19:10
劇団名/劇団 イナダ組

作・演出/武田晋 
照明/秋野良太 音響/奥山奈々 舞台美術/FUKUDA舞台
衣装統括/石切山祥子 宣伝美術/山田マサル 宣伝写真/奥山奈々
WEB/奥島康 映像制作/高橋なおと 映像出演/宇々子
制作/村山里美・小栁由美子・新浜円・中村ひさえ・二木花夏
プロデューサー/イナダヒロシ 企画・制作/劇団イナダ組

劇場名/コンカリーニョ

出演/阿部星来 藤井曠之 髙橋なおと 松浦尚紀 吉田諒希 瑠璃
川端久美子 伊藤千香 吉泉元康 西田直史 嶋口萌々子
新谷菜摘 佐藤剛 田中護 藤谷真由美 山村素絵

たそがれ人生の哀歓詩

隣人からの通報で、一人暮らし父親の家へ東京から16年ぶりに娘が帰ってくると、そこはゴミ屋敷だった。今の父親は強度の認知症らしい。目の前にいる娘が誰なのかも分からない。「誰そ彼」の状態だ。
父は若い時、敏腕の新聞記者だったが、母は彼女が7歳の時に亡くなり父と疎遠になった娘は、高校卒業後から東京で独立し、それ以後、父とは断絶していた。父親との想い出は「グローブを買って欲しかった」ことだけだ。彼女は女性ながら野球に執着し熱心に活動していたのだ。
16年ぶりに故郷の父親の元に帰ってきて、どうしょうか? というのが、この話の展開である。人生の黄昏(誰そ彼)時に差し掛かった父親と、仲違いしていた一人娘との哀しくも愛おしい哀歓詩である。その意味では我が事のように心情に深く食い入り、しみじみと二人や周囲の人たちとの入り乱れる感情の流れに魅入られる。
最初、フライヤーに「……私はグローブが欲しかった……」という惹句があったので、娘だとは思わず、息子だとばかり思い込んでいたので、理解するのに随分と混乱したが判ると面白い設定だなと、この娘の普通じゃない生き方に興味が募る。
この家に飼い犬が居るのは父親の生活が感じられて良いのだが、その犬は縫いぐるみの役者さんが演じて、それが犬の心情吐露だけで相手の人間は犬の喜怒哀楽に反応する位なら良いのだが、まるで人間相手のように反応すると、現実と別世界が混乱してまるでマンガチックな状況となり受け取りにくい。
その他、脇筋が複雑で、直接に父娘との関係が判り難く煩雑さだけが残る。たとえば犬もそうだが、近所のおばさん達とか医者とか児童劇団のアチャラカとか、もっと整理してスッキリと纏めた方が良かったと思う。印象が散漫で、逆に肝心の父娘の思いが強く残らないのが残念だった。