聴かせておくれ清志郎

観劇日時/16.4.29

劇場名/コンカリーニョ&パトス

「忌」という文字

このイベントは、毎年一回いろんなアーテストをテーマに若い劇団がそのアーテストの作品を選び、それをモチーフにして演劇を創作し上演して観客の投票で順位を決めるという催しである。
今年のテーマは、今は亡きロックのスパースター忌野清志郎(2009年・没)で、5つの劇団が選んだそれぞれの楽曲をテーマに競演した。
忌野清志郎という人は、シンガーだということは知ってはいたが具体的には、まったく知らなかった。でも「忌」という文字は「怖れ避けるべきこと」(大漢語林)で「凶」の意味が強い。そんな文字を名前に使うことにある種の興味と関心はあった。最近でも『下司の極み乙女』(「下司」とは卑しい人の蔑称でもある)とか『スキャンダル』とか人の忌み嫌う(ここでも「忌」が出てきたが)文字をあえて自称することに、ある反抗精神が読み取れるのだろうかとも思うのだった。
まわりの色んな人たちに聞いてみたが、絶賛する人と音楽的に評価しない人とに分かれた。早速ネットで調べて何曲かを一応聴いてみたが、まさにその通りで、歌詞は過激ともいえる反体制というか絶望的な体制拒否の強烈な異議申し立てと、一方には優しい愛の世界への憧れ、まさに「ラブ&ピース」で、そこに強烈な刺激を受けた。ところが絶叫するロックは、体質的に受け入れられない感覚なのも頷ける気もする。

演目1 ロックでカゲキなセカイ

上演時間/11:00~12:20
劇団名/しろちゃん
モチーフ曲/明日なき世界

脚本・演出/菅谷元  舞台監督/高橋詳幸 
舞台/勝見慧  衣装・小道具/井上航一・中村佳世
音響/金丸光  照明/高橋正和
振付/福井佑梨  デザイン/飛弾彩菜・米田悠果  
制作/濱田那津子

劇場名/コンカリーニョ

出演/兵器製造の大企業・難波重工社長=面堂終太郎
その部下・木下=根岸雄登
学生運動のリーダー・実は難波のスパイ徳田=小田修輔
オリンピック担当大臣・大沢健一=柴野嵩大
大沢の秘書・実は難波のスパイ=山本茜
ロックに生きたい就職浪人・リョウ=鴨志田亮
リョウの師匠でホームレスの老人=武岡菜々
リョウと街で出会った大沢シオリ・大沢大臣の一人娘=山内ともみ
民主主義を取り戻す学生団体のメンバー=知花彩香・泉香奈子・大橋拓真
その友人たち=伊勢川明久・金子唯

♪ 世界が破滅するなんて嘘だろ 嘘だろ ♪

以上の登場人物を紹介するだけで何となく物語が分かってしまうような気もする。つまり、これらの人たちが入り乱れて様々なシーンを次々と展開するのだ。 ♪ でもよぉー 何度でも何度でも おいらに言ってくれよ 世界が破滅するなんて嘘だろ 嘘だろ♪ の『明日なき世界』。 そして大臣の没落、娘・シオリとの和解、ロックに生きる男の再出発とシオリとの未来は、 ♪ 夜は暗い 暗い夜はそっと耳をすます すました顔すました顔であの娘が待っている 待っているのは 待っているのは 愛と平和のラブソング♪ サブテーマ曲の『愛と平和』の世界であろうか。

演目2 ロックンロール捨てる

上演時間/13:30~14:50
劇団名/マイペース
モチーフ曲/いい事ばかりはありゃしない

作・演出/八十嶋悠介  舞台監督/尾崎要
照明/清水洋和  音響/渥美光
舞台美術/金子ゆり  衣装/佐藤紫穂  制作/竹内麻希子

劇場名/パトス

出演/岩尾=村上雄大 
浅尾=倖田直機 
ヨッシー=キャス太 
マサ=大谷岱右
荒木=寺地ユイ 
平田=中ノ里香 
ナーバス=がりん 
祖父江=三上翔

♪ 金が欲しくて働いて 眠るだけ ♪

ロックシンガーのナーバスが所属するプロダクションはナーバスが売れないために倒産寸前、そこでナーバスが移籍することになった新しいプロダクションは麻薬の密売で倒産、その経緯を戯画化する。
アナタ任せで能天気な風景を、スピーディにナンセンスに切れ味良く描写した一種の現代風俗劇。
♪ 坂の途中で 立ち止まる 金が欲しくて働いて 眠るだけ ♪ という逆説的表現を素直に描いた。

演目3 オーイェス・マイゴット

上演時間/15:30~16:45
劇団名/アトリエ
モチーフ曲/GOD

作・演出/小佐部明広  舞台監督/高橋詳幸  
照明/高橋正和  音響/小佐部明広  
衣装/佐々木青  舞台美術/fireworks
小道具/田邊幸代  脚本アシスト/ヤヨイ  
制作/山木眞綾

劇場名/コンカリーニョ

♪ おおイエス何を感じてる ♪

三人の女高生、賑やかな女の子たちだが、突然そのうちの一人・まひろ(=新谷菜摘)が死ぬ。
別の一人・市佳(=橋場美咲)の母・美由希(=小林なるみ)と祖母・イト(=青木玖瑠子)は死を願望する暗い家庭。
あとの一人・琴葉(=大谷早生)は、シンガーで売り出すことを切望している冬也(=有田哲)と一緒になろうと思っているが冬也は成功に必ずしも確信を持っているわけじゃない。いつも自分の生き方を疑っている。
偶然に大きなプロダクションと契約して大金が入った冬也は、琴葉と一緒に旅に出る。希望に燃える途中で冬也は突然に死ぬ。死んだ冬也を背負った琴葉は必死に高い崖を登り、海に向かって絶望の『GOD』を絶叫する。
♪ おおイエス 何が見えている おおイエス何が聞こえている おおイエス何を感じている そこからここに降りてきな ♪
大勢の登場人物が全編でいつも死神に纏わりつかれている、というよりはそれぞれの人物は全員が自ら死神を纏わり憑かせているようにも見えて、それは何か説明的で理屈っぽいのが気になるのだが、最後まで全編を覆うペシミックな物語は、そういう人間世界の現実を神に問い掛けているというのであろうか?
その他の出演/陸=山口健太  吉岡=伊達昌俊  男=若月篤
          医者・息子・警察・教師・父・男子・店員=長枝航輝
          死神=高橋寿樹・田邊幸代・種田基希

演目4 東海道傾奇者回遊紀

観劇時間/18:00~19:05
劇団名/fukumaru  
モチーフ曲/JUMP

作・演出/木山正太 助演出/竹原圭一 
美術プラン/及川亜那 衣装/丹野早紀  小道具/蝦名里美 
宣伝美術/安田せひろ 照明/清水洋和  音響/山口愛由美  
舞台監督/尾崎要 制作/松田優哉

劇場名/パトス

♪ もしかしたら君にも会えるね ♪

忠臣蔵で名高い赤穂藩の毛利小平太(=木山正太)は、力で相手を倒す敵討ちに疑問と怖れを抱いて覚悟が決まらず、脱藩して伊勢街道の宿場まで傾奇者として極秘に逃走してきた。小平太は地元の人たちに山賊と間違えられるが、この宿場は実は山賊の被害で疲弊して困っていたのだった。
小平太は着ていた羽織から、今、有名な赤穂藩の藩士であると認められ、山賊退治の助っ人と指揮とを依頼される。生き延びるために渋々と応諾して山賊殲滅の指導をするが、疲れの為に度々と居眠りをする。その夢の中で、小平太は友人や配下の藩士たちとの苦悩のやり取りを反芻する。
宿場では、何とか山賊を制圧してこの宿場を再興させようとする一派と、諦めて新天地への再出発を求めようとする一派との対立があった。そして新天地を求めて立ち去る準備をする中で、小平太の指揮する人たちは、ついに山賊を殲滅し、櫻満開の宿場は退出派も含めて歓喜一色となるが、それを眺める小平太は複雑な心境であった。
 ♪ 夜から朝に変わる いつもの時間に 世界はふと考え込んで 朝日が出遅れた 
   なぜ悲しいニュースばかり TVは言い続ける 
   なぜ悲しい嘘ばかり俺には聞こえる 
   ou荷物を纏めて旅に出よう ouもしかしたら君にも会えるね
   JUMP夜が落ちてくるその前に JUMPもう一度高くJUMPするよ ♪

人物が多く、入り乱れるので説明不十分で納得できない部分も散見した。

その他の出演/珍念=安藤友樹   寺坂吉衛門=和泉諒
        ナエ=岩崎有希子  大石内蔵助・十郎=MC脂肪漢
        平八=尾居健太  椿=国門綾花
        松=後藤カツキ  六九郎=小林悠太
        犬=ナガムツ  ハナ=橋田恵利香 
        角蔵=前田透  お軽=最上朋香
        ササメ=安田せひろ

演奏/六弦琴=大竹翔平・山崎耕佑  四弦琴=日下拓人  和太鼓=竹原圭一

演目5 パーレンハイ

観劇時間/20:00~21:05
劇団名/ラフスパイス  
モチーフ曲/世界中の人に自慢したいよ

作・演出/高橋なおと  舞台監督/高橋詳幸  
照明/高橋正和  音響 /岩崎陸
劇場名/コンカリーニョ

出演/デレクターハラ=高橋なおと  
エクゼクティブプロデューサー=城島イケル
ADホソヤ=佐々木マリオ
キャメラマンタケウチ=俺(エン)
大道具・コイデ=山本ゆか
カメラアシスタントイマノ=嶋口萌々子
アナウンサーコジマ=朱希  
クローバー製薬担当者=梅原拓人
広告代理店リマインダー担当者=うに
オフイスフォルグ新人タレント=ミニマム齊藤
オフイスフォルグマネージャー=本多透子

♪ たとえ空が落ちて来ても ♪

あるプロダクションのCM撮影現場。準備中から本番に入っても次々と起きるアクシデントに大騒動。やり手で自信満々のプロデユーサーだが各部署の担当者の準備が悪くてミスばかりだ。
テンポが良くて滑稽で人間の弱みが誇張されて面白いのだが、清志郎の世界とどういう関係があるのかと思いきや、最後に手際の悪いと思った新人タレントのドタバタが意外な行動に出るところが ♪ たとえ空が落ちて来ても ふたりの力で受けとめられるさ ♪ つまり歌曲のこの部分だろうかと思う。愛があればすべてOKみたいな話だ。 忌野清志郎の別の世界が展開するような痛快さだが、この新人タレントが余りにも意外なのでちょっと偶然性の強いコントみたいな気もする。

   ☆

全体に、僕がイメージしていた忌野清志郎の歌詞にぴったりと来る舞台は少ないような気がする。もちろん忌野清志郎の歌はネットで調べただけなので大きなことは言えないが、素直にぴったりした感覚は薄い。
その中で『東海道傾奇者回遊紀』が一番に近いような気がする。『ロックでカゲキなセカイ』と『パーレンハイ』がコミカルな現代風俗劇のようで印象に残った。

『ロックンロール捨てる』は広がり過ぎて収拾が着かなくなった感じ。そして『オーイエスマイゴッド』は解説っぽく理屈っぽく、何だか何かを教えられているようだ。