腐食

観劇日時/16・4・6 20:00~21:00
劇団名/シアター・ラグ・203

作・演出/村松幹男  音楽/今井大蛇丸
音響オペレーター/瀬戸睦代  照明オペレーター/平井伸之

劇場名/ラグリグラ劇場

出演/村松幹男

経済至上主義の社会情勢の中での一つの生き方

この芝居も何度観たのだろうか? 回数を忘れるほど何度も観ているのだが、その度に新しい刺激を受ける。それを期待して今日も客席に座る。話の展開は知り尽くしている。それがどんな新しいインパクトを与えてくれるのか、僕がこの舞台を観る最大の関心事だ。そして、それは見事に応えてくれるのだ。
今回、観て思ったのは、この死刑囚は時代の被害者なのではないのか、ということだった。高度成長経済社会の中では、金で世の中を上手く渡り歩くヤツが幸福なのだ。その為には、他人の殺生だって許されかねない不幸な時代なのだ。この男は一つのきっかけから逆説的に、その際どい生き方を生き切った男で、必ずしもそれを否定出来るのだろうか? という疑問だった。
観客自身が、この男だったら、どう違う生き方が出来るのか? そういう問いを突き付けている。おそらくその時代には対応できなくて滅んでいった多くの人たちがいたのであろうと想像できる、むしろそういう存在をイメージ出来ない人こそ人間として否定したいというのが本当のヒューマニズムではなかろうか?

この舞台はそういう経済至上主義の社会情勢の中で人間としてある一つの生き方を通そうとして、大きく捩じれざるを得なかった男の、短い生涯を告白する一部始終の舞台化だ。これが是なのか非なのかは単純には確定できない。だがこれは一種の問題提起であって、その死刑囚の肯定・否定に揺れ動く人々の想いを舞台に表現して、これこそ演劇だと思わせた。併せてこの舞台は、ひとり芝居の概念を考え直さなければならないと改めて思った今日の舞台だった。