素晴らしい未来

観劇日時/15.11.27 14:00~15:40
劇団名/チェーホフ劇場
公演名/シアターZOO企画公演【RE:Z】・TGR札幌劇場祭2015参加作品

作/プリヴァーロフ・ダニーラ 演出/ゾブニン・パーヴェル
チェーホフ劇場支配人/エレーナ・フダイベルディエヴア
舞台監督/マリア・バユシュキナ 制作/イリーナ・ラストロギエヴア
照明/ニコライ・ブラコフ 音響/インガ・カブコ
ヘアメイク/スヴェトラナ・ブハノフスカヤ 衣装/オクサナ・ベズルカヴァヤ
大道具製作・音響協力/ほりぞんとあーと 照明協力/秋野良太
設営協力/札幌座

劇場名/シアターZOO

前世の因縁を持ちながら、新しい世界に新しい希望を託する

「素晴らしい未来」というタイトルから、劇的で明るいユートピァを志向する華やかな物語を、まず想定する。ところがフライヤーに掲載されている写真は、やや深刻な表情の若い男女が背中合わせに座っているのだ。この一見の矛盾?
舞台は背凭れもない粗末な木製のベンチが3脚とドアのようなこれも手製らしいお粗末な木製の敷板が1枚だけ。それに反して目立つのは50㎝×2・5㍍くらいの鏡が舞台背景の一面に立てかけられていて、開演前に客席の全景が写し出され観客はその鏡に自分の姿を見る事になるのだ。この鏡には二つの効果がある。客席に明りが入っている時には反射して客は自分の姿が舞台に見えるから、自分もこの劇に参加しているんじゃないのかという感覚が出来ること。
もう一つは客席が暗くて鏡に映らないときは、登場人物が倍になり背中を向けていても、こっちに語りかけているようにも見えること。そして登場人物が鏡に近寄ってじっと動かないでいるとまるで亡霊のように見えること。
そもそも、これは死後の世界なのだ。人たちはこの世界でも諦めることなくこの世界の日常の中でも細かな小さな欲求を出しながら日々を生きている。かつて生きていた前世、つまりこの世を「自由の世界」と称しながら必ずしもその自由への蘇りを渇望しているわけでもない。むしろ今のこの世界で自由に空を飛べることを楽しんでいるようである。6人それぞれが前世の因縁をもちながらも、この世界を生きようとしている、ささやかな希望。ただこれを延々と100分も演じられると退屈する。劇的な進展や展開が少ないからだ。
最後に、恐らく失恋経験者であろう少女が新入りの若いイケメンに告白の方法を聞き、ぎこちなく真似をするフリをして二人は結ばれたようだ。鏡の一番端っこに二人はくっついて皆に背を向けて立つと、その姿は皆には見えない。若い人たちは飛び立つ訓練に余念がないのだった。おそらく二人が最初に向き合った時の表情が宣伝フライヤーの写真のものだったのだろうか? それは深刻というよりは新しい世界に向かう戸惑いの表情だったのだろうか? 何となく「さよなら昨日、こんにちは明日」というチェホフの『櫻の園』の世界を垣間見るようなひと時であった。


出演者/
みんなのお母さん的存在・ターニャおばさん=クラヴデイァ・キセンコヴァ
多くを知り希望を失っている悲しい男・サヌィッチ=ヴィクトル・チェルノスクトフ
やんちゃで優しい若者・トハ =セルゲイ・アヴィディエンコ 
トハの兄貴分、名飛行士・セリョーガ =ヴラディーミル・バイダロフ
悩み多き若者・ワーシャ=アレクサンドル・アゲーフ
悲しい過去を持つ女性・マルシャ=タチアナ・ニコノヴァ