空知る夏の幻想曲(フアンタジー)

観劇日時/15.9.17 14:00~15:15
劇団名/札幌座
公演形態/日本の演劇人を育てる
プロジェクト新進演劇人育成公演(俳優部門)

作・演出・音楽/斎藤歩 照明プラン/熊倉英記
演出助手/清水友陽
舞台監督/すがの公 音響プラン/斎藤歩
衣装プラン/林千賀子 美術/山本菜穂
小道具/木村洋次 音響オペレーター/宮田圭子
宣伝美術/若林瑞沙
プロデューサー/平田修二・木村典子
制作/公益社団法人日本劇団協議会

劇場名/シアターZOO

黒いダイヤの石炭と白い小麦粉との鮮やかな対比

空知という行政区域は、かつて石炭を掘る炭鉱で栄えた地域だ。唯一僕の住む深川地方付近だけに全く炭鉱がなく農業が主産業なのだ。だがエネルギーが石油に代わってから石炭産業はまったく廃れた。
もちろん炭鉱地帯でも石炭産業だけではなく農業も盛んであり稲作中心だったが、近年は米離れの消費者要望もあって小麦の生産にも力が注がれているのが現況だ。
そして最近では、徐々にだが石炭エネルギーの見直しが注目され特に原発の稼働中止に伴って空知各地において露天堀りが大きく復活され出した。そういう空知の現代史を基に新しいエネルギー事情に注目した演劇というと堅苦しいイメージだが、幕が上がると、とんでもない。
前述したような歴史とエネルギー事情などということは観終わった後で、なるほどそういう意図も隠されていたのかと改めて気付いたことなのだ。
開幕いきなり廃鉱になった地下の坑道へ一人の農民・大和田(=彦素由幸)が鉱員・びへら(=木村洋次)に案内されて縄梯子で降りて来るが途中で縄が切れて転げ落ちる。大和田は小麦農家でカカシと渾名されるのんびり屋で大人しい篤農家だが、そのカカシのように麦畑に立っていた時、一人の女性が、その麦粉を欲しいから、その廃鉱に持って来てくれるようにという手紙を麦の穂に結んだ。それを信じた大和田はその廃鉱が入鉱禁止で困っていたら、その廃鉱を守っていたのが鉱員の亡霊である「びへら」だったのだ。そこへ現れたのが、この炭鉱に関係のある人たち、チョモ(=佐藤健一)、け(=市川薫)、ぬん(=高子未来)だった。
大和田が持ち込んだ小麦粉を巡って麻薬と間違えて混乱と騒動が起きるが結局その二種類の小麦粉を使って白いうどんが作られパンが焼かれる。白いうどんと黒い石炭との対比……大和田も自分の作った小麦粉の素晴らしさを再確認する。
これらの経緯をリアリズム無視でエネルギー爆発のヒッチャカメッチャカに客席の笑いが絶えない。唐十郎へのオマージュが感じられる。作者は演劇を始めた学生時代には唐十郎の影響が大きかったと言われる。唐作品は幻想的でリアリティの薄いラブ・ロマンスの根底に、権力への徹底批判があるのだと思う。この舞台は石炭産業の復活と新しい農業との共存を奇想天外の表現で描いた物語だ。
その他の出演。恋人であるチョモを振って石炭成金に嫁いだ葉子=山本菜緒。
葉子の妹で小麦畑のイメージ・穂波=坂本祐以。

『北海盆歌』を歌う=宮田圭子。