ハイイェン

観劇日時/15.8.26.  19:00~20:20
劇団名/劇団テアトロ・ゴドー=韓国・大田市

作/ハン・ユンソプ 演出/パク・チャンジョ 
照明監督/ユン・ジニョン
音響監督/チョン・ソノ
字幕操作/イ・ジョンモク スタッフ/ジン・ジョンイム

劇場名/シアターZOO

出演者/シン・ヒョンジ  オ・ヒョンジュン  クォン・ヨングック  
イ・ヒギュ  ペク・ジョンソン  ペク・ウンジュ

悲恋の結末

韓国のある中都市の貧しい若い農民ヨンチョンが、結婚斡旋所の紹介でベトナムから来た女性・ハイイェンに一目惚れして一週間後にめでたく結婚した。相愛の二人は将来の生活を思って楽しい希望の新婚生活を送ろうとしていた。そのころその地方では新型のインフルエンザが流行し咳の止まらないハイイェンに薬局へ行くために簡単な韓国語の挨拶語と症状の説明を教えた。
ハイイェンは韓国語が全く分からない。夫・ヨンチョンの仕事のために、仕方なく一人で恐る恐る薬局を訪ねたのだが、即刻、保健所に通報され強制収監された。
ハイイェンは、新婚の夫とその母の名前だけは言える。だが住所も225番地しか言えない。収監所はどうすることも出来ないまま日が過ぎる。
行方不明となったハイイェンを心配した夫・ヨンチョンは警察に捜索願いを出す。警察は一応形だけは対応するが、東南アジアからの女性は結婚詐欺だという建前で本気で捜索しない。この辺は一見親切そうに見せながら権力の横暴な横顔を見せる。
心労する夫・ヨンチョンを見た警察は一計を案じる。同名のベトナム出身の女性をハイイエンを発見したとして引き合わせる。夫・ヨンチョンは当然拒否する。だが夫の母はその女性がハイイェンだと言い張り、警察もこの女性が本人だと言い張る。
参考人として出頭した斡旋所の社長も確信がないにも関わらずハイイェン本人だと認定する。全員が嘘を進める中でヨンチョンは孤立する。
警察はこの件を自分たちの手柄の美談として市の報償を受け、母は海外旅行の招待を受ける。偽のハイイェンは家庭の仕事が得意で母の優遇を得る。ただ一人、ヨンチョンだけは孤立するが、頑なに偽のハイイェンを拒否する日々。
本物のハイイェンはそのころ身分不詳のまま収監所を出るが行き場所がない。親切ごかしに近寄って来た風俗業の男に雇われて男相手の仕事をせざるを得ない。
現代社会の中での貧困による悲恋物語だ。警察も表面は懸命に仕事をしている形を見せるが本音は違うのが役所の本質だ。
ついに薬局にたどり着いた本物のハイイェンは、夫と対面する。驚喜するハイイェン。今更馴染んだ家庭上手な偽ハイイェンを否定するつもりのない母親。じっと見つめる夫・ヨンチョン……。一年ぶりに待ちに待ったあの恋しいハイイェンにやっと会えたヨンチョンは、静かに「違う」と言う。きっと彼は涙の顔と震える言葉だったのだろう。
ハッピイエンドだと思った観客は一瞬の展開に唖然とする。なぜ夫・ヨンチョンは彼女ハイイェンを拒否したのだろか? 様々な思いが湧き上がる。これが現実なのだろうか? 単なる夢から醒めたのだろうか? 彼女のこれからはどうなるのか? 不思議で意外な実状を見せられた舞台だった。
夫は片側が出っ歯の醜い顔面だったので、なぜ整形しないのか不思議だった。この役だと貧乏だから出来ないという解釈も出来るが、素の役者としては整形しないのが不思議だなと思っていて、終演後にお会いしたらその出っ歯はメーク用の入れ歯だったのには二度ビックリした。この役の夫はなぜ醜い出っ歯だったんだろうか? その引け目があったんだろうか? ハイイェンはそれなりの美人でスタイルの良い若い女性だったのにだ。謎の尽きない不思議な物語だった。
純粋な愛を人間の本性として貫ぬこうとするヨンチョンとハイイエンの清々しい魅力。建前で接する権威と社会環境の中で苦しむ人たちの現状を描いた社会派の舞台、自ら求めた悲劇のラストが意味深長だった。