教文短編演劇祭 2015

観劇日時/15.8.15.
主催/札幌市教育文化会館(札幌市芸術文化財団)

舞台監督/上田知 音響/土田祐生 照明/上村範康 司会/剣崎薫
審査員/岸正人・棚田満・橋口幸絵
劇場名/教育文化会館小ホール

予選 Aブロック 14:15~15:50

 

演目1  錬金術師
 
劇団名/楽園王=東京

スタッフ細胞の存在を証明できなかったオボカタハルコさんは、ユーミン谷のスナフキンに「金が目当てだ」と言われる。オボカタさんの悪夢か、でもオボカタさんはスタッフ細胞が否定されたことで助けられた命が喪われてゆくことに自責の罪悪感を持つ。
現実感の無い舞台の幻想にオボカタさんの現実逃避の想いが切ない。そしてそのオボカタさんの想いは様々な人たちの様々な想いでもある。

 

演目2  くされ縁
 
劇団名/劇団アトリエ=札幌

高卒8年目の男2人が、偶然に再会する。むかし話をしていると高校時代の恋人が同姓同名、現在の彼女も同姓同名で、殺意までみせるが、実は同じ名でも文字の違いですべてが別人だったことが分かる。しかも高校も別だったのだ。
会ったとき、「久しぶりだから8年でずいぶんと顔が変わったナ、整形でもしたのか?」という会話や、記憶が一致しない話題には、「忘れた」という逃げの会話も入っている。
余りにも偶然が強すぎるのだが、不自然でないリアルな演技と、迫真的な乱闘寸前の雰囲気によって納得させられる。審査員の誰かが落語だと言ったのは言い得て妙、落語フアンとして賛成する。

 

演目3  TORUS(トーラス)

劇団名/Mike堂=函館

山で寝ていた男を死体と勘違いして逃げようとする女、登ってきた別の男と激しくぶつかる。だがこの最初の男と女の出会いの経緯が分かりにくい。何かの関係があるらしいのだが、それにこの山中での女が派手なワンピース姿なのも意味不明だ。
若い男は自殺志願だった。それを止める二人、若い男は「自殺は自分の意志だ」と言う。女は「自殺が自己意志なら、それを止めるのもこちらの意志だ」反論する。
翌朝、男は幼い娘ユカリに早く会いたい。女の名はユカリで若い男の母の名もユカリであった。あまり面白くない偶然性の喜劇。

 

演目4  第一回全日本帰りたい選手権 
劇団名/イチニノ=茨城

全体が早口言葉の選手権みたいでよく分からないが、現状に満足できない同期生の三人組のサラリーマンが30年後まで何とか生き延びて国の最高行政府まで上り詰めた経緯の幻想を、それぞれの退廃的希望に託して夢想する顛末。
結局は、故郷へ帰りたい、もとの会社へ帰りたい、30年前に帰りたい、の3願望が残ったのだった。

Aブロック 得点表

劇団名

タイトル

棚田

橋本

観客

楽園王

錬金術師

10

0

15

19

44

アトリエ

くされ縁

15

10

5

54

84

Mike

トーラス

5

5

0

32

42

イチニノ

 第一回全日本帰りたい選手権

0

15

10

18

43

僕は『くされ縁』が好きだが、ちょっと無理筋なのが気になる。『錬金術師』も良い。

予選 Bブロック 18:12~19:50

演目1  アカシアの花が咲いていました

劇団名/くしろ高齢者劇団=釧路

高齢の2組の嫁・姑問題を、老人施設を訪問した4人の話として語られる。話はリアルなのだが在り来たりだし何よりテンポが異常に遅くて着いていけない。

 

演目2  人の命に関わる話

劇団名/わんわんズ=札幌

道端にあった段ボール箱、通りかかった二人のサラリーマンが不審を感じ大騒ぎ、お巡さんがきて3人での騒ぎがエスカレートして大騒動の後、何事も無く2人は去る。警官が覗くと轟音がとどろき警官は倒れる。
思いこみがエスカレートした不条理劇。3人のアクロバット的な身体曲技が取り柄の体技コント。

 

演目3  どうぶつえん

劇団名/劇団しろちゃん=札幌

居酒屋で大騒ぎする3組の学生たち。おとなしい女、遅れて来る奴、うるさい女、寝ている女、トイレへ行くやつ、ケータイするやつ、ひたすら飲み続ける女、その中に2匹の猿がいる。その猿と話す奴、猿も一人前にグループに入ったり出たり……
飲み終わって挨拶した後、片付けの間も口論したり猿は縫いぐるみを脱いだり、この集団は、つまり「動物園」か? 現実をそのまま描いたマンガ。現実そのままではなく何か中心の際立つ点が欲しかった。

 

演目4  無名稿あまがさ

劇団名/無名劇団=大阪

昭和初期、雨の図書館での男女の出会いの複雑な関係と感情の流れを描いた川端康成の『雨傘』に坂田山心中を重ねた物語。
学生服の男とピンクの和服の女性のカップル。この二人は別の男女の台詞やト書きに従って動く。まるで人形劇のようで、この演出の意味がよく分からない。自分の意志で行動できない人の意味だろうか? 物語自体は単調だし表現法も奇をてらったような感じだ。

 

Bブロック 得点表

劇団名

タイトル

棚田

橋口

観客

くしろ高齢者劇団

アカシアの花が咲いていました

5

0

0

29

34

ワンワンズ

人の命に関わる話

10

20

0

90

120

しろちゃん

どうぶつえん

5

0

0

29

34

無名劇団

無名稿あまがさ

10

10

30

71

121

僕の評価はダントツで『どうぶつえん』が良かったと思う。

決 勝  15.6.16. 14:10~15:45

演目1  くされ縁

劇団名/劇団アトリエ=Aブロック勝者

 

演目2  本命キラー・あきちゃんのです、ブログ

劇団名/星くずロンリネス=昨年チャンピオン

友人の彼女が書くブログが翌日の出来事を報告していることを知った男がそれを利用して競馬で大儲けをする。
菊花賞に賭けたとき、なぜかネットが不能となる。人物名が吉川翔(キッカワショウ)だったのは菊花賞に掛けていたことが最後まで分からなかった。このように様々な身近かな物品名をレース展開に当てはめる言葉遊びだけの物語でしかないと思う。

 

演目3  海獣日和 

劇団名/東海連合=東海地区からの刺客

中学生男女の微妙な思春期の交流。本物の中学生がプールサイドで食い違う会話。水泳の選手らしいが今日はなぜか見学者であり、その競技を見ながら、かつての想いを語り合う。
本水を使ってずぶぬれになる二人。舞台をプールの縁に見立てて客席へ飛び込む女子。目の前にシブキが飛び散る現実感。
最後に手を取り合い「君は泳ぐべきだ」と熱く語るのだ。単純だが熱情的な一幕。

 

演目4  無名稿あまがさ
 
劇団名/無名劇団=Bブロックの勝者

決勝 得点表

劇団名

タイトル

棚田

橋口

観客

アトリエ

くされ縁

5

0

0

61

66

 星屑ロンリネス

本命キラー あきちゃんのです

0

0

5

97

102

海獣日和

東海連合

15

30

20

62

127

無名劇団

無名稿あまがさ

10

0

5

53

68

 

 

 

 

 

 

 

僕の評価はやはり『くされ縁』だろうか?
『海獣日和』も悪くないが、本物の中学生を使って創ったことに、何か同意を求める不純さを感じる。
あと『錬金術師』『人の命に関わる話』『どうぶつえん』などが印象に残った。
観客票には地元劇団のサポーターによる集票が感じられ、人気投票のような趣も強いと思う。