雨夜の喜劇

観劇日時/15.8.8. 14:00~15:45
劇団名/エンプロ・プロデュース
公演回数/vol.17

脚本・演出/遠藤雷太 助演出/阿部祐子
照明/相馬寛之 照明操作/山本雄飛
音響/橋本一生 音響操作/倉内衿香
舞台美術/川崎舞 舞台装置/上田知
小道具/後藤貴子 音楽/川西敦子
制作/加納絵里香・大沼理子
宣伝美術/大塚ちかこ 映像撮影/上田龍成
写真撮影/小林翔平・高橋克己
協力/怪獣無法地帯・劇団にれ・ディリバレー ダイバーズ・
yhs・青木玖璃子
スペシャルサンクス/南参(yhs)
企画/エンプロ

劇場名/演劇専用小劇場 BLOCH

嘘を吐く設定の土台が弱く緊迫感が無い

30になる独身男の売れない小演劇の役者・片桐光一(=深浦佑太)は役者生活にしがみ付いている。弟・夕矢(=楽太郎)は料理職人としての生活も安定し、妻・藤実(=金子綾香)との家庭も豊かだ。田舎の両親(=父・潤一郎=城島イケル 母・ゆかり=伊藤しょうこ)は、光一に早く役者稼業に見切りをつけて安定した仕事に着くように常々言っている。光一は硬い職業に着いたと嘘を言っている。そんなある日、父母の結婚30年を祝う会が弟・夕矢のマンションで開かれることになって両親が田舎から久しぶりに出てくることになった。
いわゆるシチュエーション・コメディで、心ならずも吐いた嘘と誤解の積み重ねで状況がドンドン悪化して行くのを何とか修復しようとして嘘の上塗りを重ね、ますます混乱してゆく可笑しさを描いたコメディを目指しているのだろう。
だがこの話、設定自体がかなり不自然で無理が散見する。例えば兄が恋人と間違えて劇団のプロデューサー田辺葵(=長麻美)にこのパーティの招待メールを送ったために、プロデューサーと恋人・立花亜希子(=池江蘭)の二人が来て、光一がその立花は劇団の新人女優だと言うのが安直すぎる。嘘を吐く光一は余りにも無防備すぎる。もっとリァリティのある嘘でないと納得できない。第一、立花が納得できないだろう。そんな見え見えの嘘なんて観ている方は白ける。
突然に訪れる隣人の警官・赤石良太(=村上義典)とその弟の医大生・道雄(=櫻井保一)の出現も現実味が薄い。造られた出現臭い。駅で偶然に出会って道案内で来たとか雨で傘を貸したとか祝宴に出る必然性が薄く、その重なりが続くと都合がいいなと思って話に入り込めない。
父親が心臓にペースメーカーを装着しているという設定で、ケイタイやスマホを22㎝以内に近づけては危険だというので大騒ぎしたり騒ぎの原因にするのは不自然極まりない。僕は心臓ペースメーカー装着で1種1級身体障碍の当事者だからよく知っているのだが、現在はケータイも15㎝以内だから左耳は使えないが右耳は大丈夫だし、旅客機に搭乗の際の磁気検査ゲートは通られないくらいしか注意事項はない。
8年以上前の作品だから、そのくらいの進歩はあるのかもしれないが、そうなるとそのころスマホは有ったのだろうか? どうもペースメーカーの被害妄想とは思えず設定無理の感じが強い。一事が万事で何とも素直に笑えない。
さらに嘘を大仰に表すためか演技がオーバーアクションの連続で逆にそれが設定の無理を隠すようにも見えて白ける。
先日観た「パインソー」の『フリッピング』も物凄いオーバーアクションだったが、芯を型造っている物語がキチンと固定しているので、その大仰演技がぶっ飛んでいても共感できるぶっ飛び方であり、ぶっ壊れ方だったのだ。そういう意味では、この『雨夜の喜劇』は設定の弱さをオーバーアクションで悪く言えば誤魔化しているように見えてしまう。
折角、手練れの中堅演技者を揃えているのを期待したのだが、残念ながら面白い舞台とは思えなかったのだ。前回の演出者が今回は降りた理由が分かるような気もする。