戯作者銘々伝

観劇日時/15.5.27. 13:30~16:30 (途中15分の休憩あり)
劇団名/こまつ座

作・演出/東憲司 音楽/宮川彬良 美術/島次郎
照明/沢田祐二 音響/齋藤美佐男 衣装/前田文子
所作指導/花柳けい 宣伝美術/唐仁原教久
演出助手/鈴木めぐみ 舞台監督/森和貴 制作統括/井上麻矢

劇場名/東京・新宿 紀伊國屋サザンシアター
登場人物/亡霊の京伝・山東京伝・・・・・・・・・・・・・・・・北村有起哉
亡霊・百合・お園・板行屋・お菊・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新妻聖子
亡霊・門弟・木偶使い・幸吉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・玉置玲央
亡霊・蜀山人・式亭三馬・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・相島一之
亡霊・門弟・三助・船頭・徒士・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・阿南健治
亡霊・京山・喜三二・母親・烏亭焉馬・小林善八郎・・・・・山路和弘
亡霊蔦屋・蔦屋重三郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・西岡徳馬

戯作者たちの思いと表現、そして現代との相似

井上ひさしが書いた同名タイトルの短編小説12本を基本に、劇団・桟敷童子の代表で劇作家・演出家の東憲司が構成・劇化した舞台である。
井上ひさしは、江戸時代の権力の規制に対しての反発と反権力を、笑いとバイタリティで表現したのが戯作者であると言い、その戯作者たち12人のそれぞれの生き方を描いた12編の短編小説の中から、何人かの戯作者と登場人物を抽出して紹介し、さらに戯作者の周りに居た江戸の一般庶民の人たちの生き方をアレンジして、改めて七つのシーンで構成したのがこの舞台である。
井上ひさしは「世間の動きにチクリと滑稽の針を突き立てて撓みがあればそれを正す、歪みがあればそれを笑いの中に直す、これが黄表紙(戯作)の生命ではないか」と言っているが、この舞台はそれをその通りに表現している。そして、それはまさに現代にも通底する世界の現象でもあるのだ。
的確にアレンジしているとは思うのだが、やはり名作といわれる原作の舞台を観ると、やっぱりその原作を読みたくなるのは何時ものことであり、今回もこの舞台は原作を紹介しているだけのような気がして、予想が具体化した程度にしか感じられなかったのだ。特に舞台装置など象徴化が強くて具体性が乏しかったと思われたのも一因かもしれない。こまつ座では『藪原検校』のあの極端な象徴化には感動したのだけれども……
その中でちょっとビックリしたのは、戯作者同士が、お互いを揶揄しているシーンが何か所かあったことだ。それは想像の範囲以上だったので何か印象に残ったのだが、悪い印象ではない。有り得るだろうなという、むしろ健康な対応だと思われたシーンであったと思っている。
改めて12編の原作を読んで再び驚いたのは、もちろん基本は権力に対する反発であり反権力なのは当然なのだが、それと同時に、すべて自己の利益のために、同業他者はもちろん、師弟や親子などなどを裏切ったり奸計を巡らせて陥れたり、ほとんどがそういう展開の物語というか事実であるのだ。多少の誇張やそのこと自体が作品上の架空の創作テーマなのかもしれないが、魑魅魍魎の世界であることに唖然とする。

舞台を観ていて多少は感じたのだが原作は、むしろそれが主題であるかのような気さえしたのが強烈な印象であった。