リア

観劇日時/15.5.26. 14:00~15:25
公演形態/春の劇場05 座・高円寺レパートリィ
企画・製作/NPO法人 劇場創造ネットワーク 座・高円寺

原作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/小田島雄志
構成・演出/佐藤信
構成協力/生田萬 美術/島次郎 照明/齋藤茂男
映像/飯名尚人 音響/島猛
衣装/岩井克己 メイク/清水悌 
かつら/川口博史・喜屋武樹理
造形小道具/福田秋生・江久保暢宏 
演出助手/鈴木章友 舞台監督/北村雅則

劇場名/座・高円寺

老齢に向かう人間の荒涼とした心象風景

女優(=渡辺美佐子)が演じるリア王。男優「影」(=植本潤)が、しかも一人三役で3人の王女を演じ、もう一人の男優(=田中壮太郎)が進行役として道化を演じる、いわば説明的な舞台の一面もある。つまりこの舞台はリアルな物語展開ではないのだ。
人生の終焉に向かう一人の人間が、その心境を象徴するような荒涼とした荒地をイメージした、緩やかな傾斜のついた何枚かの複雑に組み合わせられた高低の台の上で演じられる。
ほとんどは、リアの、娘たちに対する不信と心の通わない焦りの独白のようなものだ。その少し高台になったまだら模様でドロ色の中心部分は大きな噴火口のような穴になっていて、その中にはドクロが落ちている。三人の王女を演じる「影」は黒い十字架の上部にそのドクロを載せ、横の棒に自分の布片を垂れ下げて人形のように操りながらリアと人生問答のような対話をする。
全編に強風が吹き荒れ雷鳴が轟く。これは権威を失った王とその王女という具体的な物語を超えた哲学的な問答による老齢の苦悩の心境を表現したような舞台であり、シェイクスピア研究の東京芸大教授の近藤弘幸氏は「荒野に戦争や天災の影を見る」と書いている。つまり人生の終焉を迎えた人間の、すべての社会現象をも含めたアンハッピィな我が存在への慟哭・呻吟の表徴とも見えるのであろう。

リア王の台詞に応えるように登場する女性がリア王を演じ始め、その後に登場する男たちは彼女の妄想に付き合うように参加する。つまり我が子を失い荒野を彷徨う一人の女がリアを演じているのかもしれないという解釈はなかなか面白い意外な見方である。