黄昏る泡の国

観劇日時/15.3.22. 18:00~19:50
劇団名/弦巻楽団「舞台に立つ」
上演形態/成果発表公演

作・演出/弦巻啓太 照明/山本雄飛 音響/渥美光

劇場名/シアターZOO

様ざまなアレゴリィの集積

 若い医者・伊脇(=佐久間泉真)がバイト募集に応募して、人里離れたあるお屋敷の病人の専属医師として住み込みで赴任した。そこは浮き世離れした現実味の全くない世界であった。
 大勢の家族と使用人たちを強制力をもって陰で統率しているのは一家の祖母であるトシ(=塩谷舞)であった。それからが現実離れしている。
 彼らは実に300年以上も生きているのだ。それは当時生け捕りにした人魚である、しずく(=平沙菜恵)に、殺した人間の肉を食わせてその人魚の血を飲むことによって生きながらえているのだ。
 ほとんど僕の知らない、たぶん劇画の世界だ。そして家族や使用人たちはそれを疑わずに秩序として平然と300年も生きているのだ。そのしずくが弱ってきたので事情を知らないバイトの伊脇医師が来たのだ。
 これは一種の統制社会のアレゴリイじゃないのか。統制された秩序ある社会体制を維持させた歴史的な社会を象徴的に表現したおとぎ話のように見える。
 本来は戸主であるべき辰雄(=小塩大輔)は母に従順を装って実は密かに毒薬を栽培している。ラストにその毒薬によって全員が死滅するのだが、難を逃れた雇われ医師が人魚を彼女の依頼によって射殺する。だが辛うじて生き逃れた医師の元に彼を信じた人魚は蘇る。
 すべてが都合の良い展開だが、「生きる」ということ「なぜ生きるのか」「強制的世界のなかでの生きる意味」など様々なテーマが散りばめられていて、単純で大袈裟であり得ないおとぎ話でありながら、良く深く観るとエンターテインメントな表現の中に特に若い人たちに訴える何物かが潜まれている物語だろうと思われる。
 終わったかと思わせながら次に続いてゆく展開には引き込まれる作者の深い思いが感じられて、又かとは思わず、「えっ次はどうなるの?」という観客の意外な期待に応えてくれる舞台であった。