英国のある貴族夫婦のある一日。交流のある夫婦が訪ねてきて一夜を過ごす物語だが、全然、リアリティがない。
夫婦の会話がまったく噛み合わない。むしろ意識的に噛み合わなくしているようにさえ見える。夫婦の感情のソゴでもない。形式だけを重んじる、行き違いを感じないような不思議な人間関係なのだ。
例えば舞台装置の背景は稚拙で平面だけの絵で描かれているだけなのに応接セットは異常に豪華だし、この貴族の居室を象徴するプロセニアムを型造っている3枚の幕のつなぎ目が微妙にずれていたり、時間をしらせる時計の鐘の音がむちゃくちゃな数を打つことでも現実を表さないことを象徴していたりしている。
すべては現実ではない夢幻の世界なのだ。もしかしたらすべての人の意識の中には、こういう現実とは無縁の不思議な世界が存
在するのだろうか?
とすると「トップガールズ」の世界と、ある種の共通性があるのかもしれない。異空間を続けて体験したような気分だった。
あるいは、この舞台は人間的な心情の薄い権威主義の貴族社会の人間関係を笑っているのかも知れないとも思われる物語なのだ
った。
『禿の女歌手』というタイトルと一体どういう関係があるのか? あるいは逆にまったく無意味な関係を現わそうとしてこんなタイトルを付けたのだろうか? |