ベッカンコ鬼

観劇日時/14.11.14. 19:00~20:10
上演形態/深川おやこ劇場 11月例会
劇団名/劇団 なんじゃもんじゃ
 
原作/さねとうあきら 脚色/ふじたあさや 潤色/西尾瞬三 
演出/なんじゃもんじゃ 音楽/藤原豊 美術・衣装/坂本真彩 人形制作/加藤典子 出演/西尾瞬三・西尾夏子

会場名/深川中央公民館

『座・れら』の同じ舞台に引けを取らない舞台だった

 中年のご夫婦お二人の劇団、ベッカンコ鬼とユキの父親を西尾瞬三、ユキと山母を西尾夏子が演じる。ユキは乙女文楽式の人形で山母は仮面と衣装。鬼は仮面を付け衣装で演じ分ける。ラストの鬼と父親の対決は一人では無理で鬼は夏子が演じる。
 ちょうど去年の今頃に観て、今も鮮烈な印象の強く残る『座・れら』の舞台で衝撃的だったユキのラストの踊りはなく、今日の舞台は死んだ鬼に対するユキの哀しみと父に対して心を閉して孤独になるという形になっていた。これはこれで苦悶の心情が強く現れていたが、『座・れら』の壮絶な舞台には及ばない。
 だが今日の『なんじゃもんじゃ』の舞台は、心を開かないユキとベッカンコ鬼との隔絶が融けてゆくシーンは、細かくていねいに描かれていて二人の変化には納得がゆく。ユキは盲目のために里では差別される存在であり、ベッカンコ鬼は鬼の存在そのものと同時にその鬼らしくない醜い容貌もあって二重に差別されている。その被差別者同士の愛の交換が切ない。それがこの舞台の良さであろう。
 2人だけの舞台を創るその演技の確実さはもちろん魅力的だったが、舞台の至る所にスイッチが設えられて、その隠しボタンを押して音響も照明も全部を二人が演技中に操作しているのには驚いた。もちろん観客は気付かない。僕は分かったけれども終演後の観客の質問で細かく説明されていた。
 ただ僕も分からなかったのは森の樹に吊るされた鈴がタイミングで揺れて鳴る仕掛けだ。僕は透明の糸で引っ張っているのではないかと思ったが、根元に隠された小型の扇風機にスイッチオンして送風しているのだった。
 そのように実に細かな仕掛けが充実していて、たった二人だけで創る小さな舞台とは思えぬ豊かな情緒を表現していた。