あなたに会ったことがある・3

観劇日時/14.10.29. 19:00~21:00
劇団名/MODE

構成・演出・美術/松本修 照明/大野道乃 音響/林あきの 
舞台監督/村田明 演出助手/村野玲子 宣伝美術/大久保篤 
制作協力/ぷれいす・村野玲子 企画・制作/MODE

劇場名/上野ストアハウス
出演/石井ひとみ・山田美佳・力徳朋・斉藤千夏・斎藤由衣・
  榎本純朗・森優太・江藤修平・高橋洋介・松本修

若い時代のチェーホフが、生活のために書いたと言われる200編くらいもある短編小説の中から8編を選んで、ほとんどそのままに劇化したオムニバス。これらの小説は、後期の戯曲の原型が見られると言われているそうだ。

演目1 ポーリニカ

 洋品店の男性店員。その男の彼女に別の学生が現れ、彼女はその学生に惹かれる。だが男店員も諦め切れない。彼女は買い物にかこつけて、その洋品店にやってきて、当の店員や買い物客も巻き込んで賑やかな喧噪のなかでのぬらりくらりの痴話喧嘩。

演目2 少年たち

 少年が友人を連れて都会の学校の寄宿舎から帰郷した。二人はアメリカへ渡って一攫千金を目論む幼い冒険を夢見ている。少年の妹たちが察して両親に告げて、少年はビビる。

演目3 小波瀾

 =(舞台の記憶が薄かったので小説を読んでみた。)=
 別れた両親。母は愛人と同居し、一緒に住む8歳の少年は、お手伝いの女性に連れられて、母に内緒で父に会いにゆく。
 別居する両親と、母と同居する男との三角関係という大人の事情を微かに感じる、大人への階段か。貴族家庭の複雑な人間関係と精神状況だ。

演目4 変人

 真面目で四角四面の吝嗇男。妻の出産に助産婦の費用を値切り倒す。自分の子どもたちにも金については厳格だ。値切られた金額で渋々と出産に立ち会った助産婦さんは約束の3ルーブルを貰うのを忘れた。欲の闘争に負けた女。

演目5 ジーノチカ

 =(これも舞台の記憶が無いのでやはり小説を読む。)=
 兄を通して大人の世界を垣間見た少年は、母親に密告して兄たちに憎悪される。つまり憎まれ初めの物語。訳者の沼野充義の解説によると、ツルゲーネフ『初恋』のパロディと読める、ユーモア作家・チェホンテから苦さ・鋭さの本格小説家への転換の時期にあたる作品だそうである。

演目6 劇作家

 =(同じく小説から。)=
 全身の体調不順感から病院を訪れた劇作家、日常生活を聞かれて、連日・終日の酒浸りで不快感から逃れられないと言う。劇作は何時するのかと聞かれて、外国の作品をバイトに翻訳させ、それをロシア風に焼き直すと答える。それだけのバカバカしい虚無的な話。

演目7 男爵

 田舎の劇場付のプロンプター。役者を褒めて差し入れの酒にありつくアル中男だ。舞台でトチリ捲るハムレットの代わりに舞台に飛び出してヨレヨレのボロ衣装でハムレットを演じて大喝采を受けるが、役者たちに引きずり降ろされる。

演目8 ねむい

 過酷な作業に追いまくられるお手伝いさん。仕事中にだんだん眠くなる。夢の中に出てくる家族や知人たちの暗い重い人生の日々が象徴的に演じられる。

 そして最後に一番の敵であると思う、自分が子守している乳飲み子を絞殺する。救いのないこれも虚無的な話

☆ ☆ ☆ ☆

 様々な人生のリアルなひと時の葛藤を、さり気なく自然に表現する。終わりはなく何となくワンシーンは終わるが次々と現れ繋がっていく終わりのなさだ。
 印象が薄いと思われたのは、短編といえども一時に8作品、それも似たような感覚だったから記憶が混乱したり薄れたのかも知れない。
 3作品を含めて改めて小説で読んで、その解説も読むと、舞台を観た以上に感銘が深いのは何故だろう? この舞台は単に案内役をしただけなのだろうか?