わりと激しくゆっくりと

観劇日時/14.6.21. 13:30~15:20
劇団名/劇団イナダ組
上演形態/新作公演

作・演出/イナダ 照明/相馬寛之 音響/奥田奈々 舞台美術/FUKUDA舞台
衣装/村山里美 小道具/佐々木志乃・中村ひさえ
宣伝美術/山田マサル 宣伝写真/奥山奈々 ビデオ/小路篤史
制作/小柳由美子・村山里美・新浜円・駒野華代・稲村みゆき・schoolイナダ組
劇場名/コンカリーニョ

死期を目前にした男の心

再婚同士の夫(=藤村忠寿)と妻(=山村素絵)、父の連れ子の娘(=吉田諒希)、同じく母の連れ子の息子(=hiroki)の4人家族。
大会社を失業した父は夜警でバイト、母は自由業を起業して大成功し大忙し。だが娘は元気でまっとうな高校生だが、息子は無口な引きこもりだ。
そこへ突然、母の前夫(=武田晋)が現れる。善意だが食い違う4人4様の気の使い方の大騒動。前夫は末期のガン患者だが、何故か若い女性(=阿部星来)の部屋の居候であり、その相棒の若い男(=KEI)のカップルにおんぶにだっこ状態だが、それなりに3人3様のバランスは取れているようだ。
話は、娘に会いたさに無理に押しかける前夫や、それに力いっぱい後押しする同居者の若い男女の関係とか、かなり荒唐無稽な部分も多いけど、生きるという意味は何なのか、死に向かう覚悟とは何なのか、というメッセージはハッキリとして爽快だ。
時間が前後したり、空間が飛び移ったりする話の展開に無理があるかなって思ったときに「ああ、これが演劇の表現なんだ」というギャグの台詞が入ったり、そんな表現でも演技にリアリティがあると何となく了解されたり、それが演劇なんだと思わせられたりする。
この物語は一般的に家族の在り方を考える話のように思われるかもしれない。でも僕には武田晋の演じる死期を目前にした男の覚悟が主題であると思い、そこだけに注目が注がれるように感じた。
昨日の『8月の鯨』とは、似たようなメッセージだが、基本的に違う表現だ。『8月の鯨』の日本的な情緒のリアルらしい表現の嘘っぽさと、この舞台の西洋っぽい現実主義だが表現のリアリティと、動きの激しさ、展開の目まぐるしさの飽きない魅力。
次の二つのメッセージ……
ユングの「愛の支配するところに権力は存在しない、権力が幅を利かせるところに愛はない。両者はお互いの影なのだから」
フロイトの「いつの日か過去を振り返ったとき、苦心に過ごした年月こそが最も美しいことに気づかされるだろう。愛情をケチってはいけない。あなたの強さは、あなたの弱さからうまれる」とは、イナダ氏がフライヤーで紹介した言葉だ。これがこの舞台の核心なのだろう。