十二人の怒れる男 

観劇日時/14.5.16. 19:30~20:45
上演主催/イレブンナインプレゼンツdEBoo
上演回数/#1

作/レジナルド・ローズ 訳/額田やえこ 
演出/納谷真大 演出助手/町田誠也 舞台美術/高村由紀子 
舞台監督/上田知  照明/植村範康 音響/奥山奈々 
音製作/明逸人  衣装/イレブンナイン  
宣伝写真・デジタルコラージュ/クスミエリカ 
宣伝美術/小島達子・江田由紀浩
制作/澤田未来 プロデユーサー/小島達子 
ゼネラルマネージャー/カジタシノブ
企画・制作/イレブンナイン
劇場名/コンカリーニョ

俳優座の舞台との違い

一昨年の秋に観た俳優座の『十二人の怒れる男たち』と比べると、今回の舞台の出演者たちは、何らかの舞台で顔なじみの俳優さんたちばかりなので既視感が強く、一定の枠に嵌めて観てしまい、どうしても客観的に観られないのが弱い。
その中で一番に不満だったのは、役の人物の個人的で具体的な背景が説明されないので訴求力が弱いとうことであった。物語は先刻ご承知だから問題は出演者たちの表現力だ。その点では素晴らしい力を発揮したが、第一に気になるのが、それである。
それは全員の役柄の背景がはっきりとしないので、発言の裏付けが弱いのだ。その点では俳優座の舞台は台詞の端々で明瞭に説明されている。
1号の陪審員長は高校のスポーツ・コーチ(=能登英輔)、2号は気の弱い銀行員(=小山佳祐)、3号の息子に裏切られた中小企業の社長(=納谷真大)、4号の株の仲買人(=河野真也)、7号は早く終えて野球を見に行きたい食料品のセールスマン(=江田由紀浩)、8号は建築技師(=久保隆徳)、9号は老人(=山田マサル)、11号は移民の時計職人(=大川敬介)、そして12号が広告代理店のコピーライター(=明逸人)までは役どころから俳優座と比べて何となく分かるのだが、後は推測で5号が看護師(=青木一平)、6号は、やはりペンキ職人(=窪井響)、そして10号はスラム出身で偏見の強い男(=小林エレキ)であろうか?
これらの背景は、この舞台ではほとんど語られていないので、映画や他の舞台などで何度か観ている人には分かるけど、初見の観客には、そういう背景を知った方が感銘度も強いと思うのだが……
舞台装置が象徴的で重量感が薄く、どっしりと迫ってくるリアルさが弱いのが残念だ。同じようなことだが、この舞台状況は暑さが重要な意味を持っている。肉体的な苦痛の影響が圧迫感を強調しているのだが、この日はうすら寒いような日和で、客席も寒々と感じられ、登場人物たちの暑がっているのがリアル感に欠けて嘘っぽいのが痛手だった。
そしてラストに、最後まで反対していた3号が翻意するキッカケとして破り捨てられる写真の説明がないのでその心情が分かりにくい。これも映画その他で既に観ている観客には当然のことだし、もっとこの人が息子との関係を話していたら推測が付くのかもしれないが、その点ちょっと観客に任せ過ぎたのではないのかと思うのだ。
守衛役はトリプルで町田誠也・竹原圭一・能登屋駿介。
なお俳優座の舞台については『続・観劇片々』第39号(13年3月刊行)で詳細に報告をしています。
この舞台に刺激を受けて、三谷幸喜の『十二人の優しい日本人』のDVDを観た。だいぶ旧い作品だしパロディだが、「優しい」と表記されている通り、オリジナルの民主主義の原点とはちょっと違った民族性の柔らかな美点が感じられて、これはこれで面白い劇であった。
さらにアメリカ製のオリジナルが観たくなったが、残念ながら田舎のDVD屋さんには在庫がないので、こんど札幌か東京へ行ったときにでも探してみようと思う。