表へ出ろいっ!!

観劇日時/14.4.22. 19:00~20:20
劇団名/北翔舞台芸術

公演回数/4年目定期公演vol.4
作/野田秀樹 演出/村松幹男
劇場名/ポルトホール

バカバカしい大騒動の象徴劇が示すこと

お能の宗家であるこの家の主人(=中西大樹)は、ディズニーランドの人工照明に痺れている。だからその結果として、ディズニーランドのイベントで買うキャラクターのフイギユアが宝物なのだ。
妻(=山崎亜里紗)は、夫の自分勝手で他人の人格を認めないような性格を嫌悪するが、宗家の手前を繕って平穏を装いながら離婚届けを常時、隠し持っている。その彼女は幼い少年たちのアイドルグループに熱を挙げている。
娘(=滝田千穂)は、あるファスト・フードにご執心で、その関連グッツの収集に熱を挙げている。
三人三様の非常識的な凝りようだが、今夜は偶然に三人とも大事なイベントがある。だが、当家の愛犬が今夜にも出産の予定で、誰かが留守を預かってその面倒を見なければならない。3人はそれぞれに勝手で自分の都合の良い屁理屈で何とか留守番を免れたい。
ついに実力行使に及び、妻は犬の散歩に使うはずの鎖を持ち出し夫の油断を突いて足を縛り付ける。次に夫は妻の足を、さらに娘までも縛り付け、鍵がないので三人とも動けなくなる。
そういう葛藤が延々と繰り広げられるのだが、いささかリアリティが欠ける。そして最後に、暗転・暗転の展開で局面は最悪の状況に追い込まれ、救いのないラストを迎える。全体に、もし上手く表現できたとすれば、滅茶苦茶で救いのない騒動劇として現実的な舞台となっただろうけど、これはあくまでも象徴劇なのだ。これをリアルな騒動として爆笑して鑑賞できたら実に面白いだろうなとも思った。
そこで二つほど疑問があるが、その第一は犬の扱いだ。冒頭、なぜ留守番が必要なのかの具体的な理由が判然としないのも、象徴としてありかなと思ったのだけれども、実際に登場した犬の家は豚の形をした大きな張りぼてだった。
その中に愛犬が居るとは到底思えないし、途中の騒動の中で出産直前の愛犬がいる、その張りぼてが荒々しく扱われ転がったりひっくり返ったりするのだ。到底、中に懐妊中の愛犬が居るとは考えられない。だがこれもリアルに見るよりはこの三人の心情の象徴と見るべきなのか。同じように三人の足を固定する鎖も現実的ではない。
とするならば、この舞台のすべては三人の心情の象徴劇だと思わざるをえないのだ。実際には起こり得ないような展開だ。だがそれは別にリアリティの問題ではない。この三人の心理を拡張して象徴的に描いた表現とみれば納得できる。つまり自分本位で自分勝手な人たちの行動の結果の自業自得の結末なのだ。そしてそれは個人ばかりでなく集団は勿論、国家間の関係までをも象徴する。
途中で声だけの訪問者が3度ほど訪れるのだが、それらの声はすべて録音だということがハッキリと分かり、これもリアリティがないのだが、象徴としてわざと録音の音声だということを隠さない手法なのだろうか?
すべてが、そこへと収斂していくと、意識的にそういう演出だったのかと納得せざるを得ないのだった。