演 目
人 質
観劇日時/13.10.25. 20:00〜21:10
劇団名/シアター・ラグ203
作・演出・照明/村松幹男 音楽/今井大蛇丸 音響/湯澤美寿々
劇場名/ラグリグラ劇場

経済一辺倒の現実社会を斜にみたコメディ

 大手銀行支店に銃を持った強盗(=平井伸之)が押し入り、4人の女性行員(=久保田さゆり・瀬戸睦代・吉田志帆・萬年わこ)を人質に取って立て籠もった。
 強盗は要求を出さないままに時間が過ぎて、TVのニュースキャスター(=田中玲枝)は、ここぞ出番とばかりに面白可笑しく中継放送に熱が入る。警察(=声だけ・村松幹男)は拡声器を使って降伏を呼びかける。犯人の身元が割れて、相愛の同棲者(=湯澤美寿々)も降伏を呼びかける。
 人質になった4人の行員にも様々な事情がだんだんと露わになってくる。彼女たちもなかなか一筋縄ではいかないプライベートな事情がある。彼女たちにとっては犯人が政治の現況に対する反抗が事件の真髄なのではないのかと推測する。
 だが、やがて犯人は彼女たちからすると恥ずかしいほどの金額のための犯罪だと知って俄然、憤激する。自分たちは高邁な思想の為に犠牲になったというシュチュエーションでなければ自分たちのプライドが許さない。このままおめおめと事件が解決したら自分たちの立場がない。ここは大芝居を打って、この犯人と自分たちの立場を強く打ち出さなければならない。4人は犯人をも巻き込んで大芝居の段取りを作る。そしてどうなるのか? で幕が降りるのだ。
 開幕劈頭の緊迫から形勢が逆転する経過、彼女たちや犯人の内幕や現実が露わになっていく展開がなんともリアリティがあって、レポーターの大仰なレポートや犯人の同棲者がシャシャリ出るエンターテインメントのシーンがバカっぽくて現代的な真実味も強く面白さは抜群だった。
 『本質を糊塗する虚飾の滑稽さ』と題した初演時の感想の一部を抜粋しよう。
          ☆
 気がつくのは、あの、つかこうへい作『熱海殺人事件』との類似である。あの芝居は軽微な罪状の犯人を警察の面子に関わるとして、極悪非道の殺人犯に仕立て上げていくナンセンス。
 この不条理劇に共通するのは本質を糊塗する虚飾の虚しさと滑稽さにあるのだろう。しかしお互い人間であってみれば、ことに際してはこの程度のことはやりかねないので、普通の人にとってもごくありふれたことと納得させられる。
 そうであるならば、われわれは熱海警察署の刑事たちのお祭り騒ぎの愚行や、この南海銀行の5人の女子行員たちの一見無駄とも思える努力をバカにして笑ってばかりもいられない。(註・初演では女子行員は5人だった)
 確かにこの5人の行動は危機管理のマニユアルを大きく超えて暴走している。それは実に滑稽であり、リアリティがあればあるほど可笑し味がこみあげる。そしてそれを笑って観ている自分がいつか同じようなことをして笑われてはいないか? とフト苦さが蘇る――
          ☆
 政治・経済の現状が生々しく引用されるのは始めどうかなって思っていたが、これは一種のギャグとして真実をあからさまに伝えるのもありかなって思う。それだけ、内容の濃い面白い舞台であった。