演 目
殿様と私
観劇日時/13.10.17. 13:30〜15:40(途中休憩15分)
劇団名/文学座
公演形態/旭川市民劇場10月例会
作/マキノノゾミ 演出/西川信廣 その他のスタッフは記載なし
劇場名/旭川市公会堂

新しい時代に向かう葛藤

 この舞台、一番エンターテインメントの魅力を感じたのは、およそ2/3程が終わってハッピイエンドかなと思ったら一瞬の暗転後、その続きが始まったことだった。もうその後の展開は不要だろうと思ったのだが、何と話は逆転して意外な結末となったのだった! 騙されたような、その面白さを堪能したのだった。
 もう一つ、明治維新直後の話なので、アメリカ人と日本人が話すとき普通は通訳を使うのだが、そしてもちろん通訳は居るのだが、この舞台での会話ではアメリカ人は日本語で喋り、それが如何にも英語のように思わせ、相手の日本人はその英語が理解できないような様子、でももちろん観客には日本語だから当然に分かる。逆に日本人の話す日本語は当然アメリカ人には分からないから通訳が英語に訳する。
 さらに、日本人が稚拙な英語として半端な日本語を喋ると観客は何となく稚拙な英語を話しているように聞こえるという塩梅で、これは観客サービスであると同時にデスコミュニケーションの漫画化表現として絶妙に面白い。
 さて話は、国策により開国されて、名門白川家の当主・白河義晃(=たかお鷹)は大和魂の抑え込まれに対する義憤に悶々として、未だにちょん髷を残す忠実な家臣・雛田源右衛門(=加藤武)と酒浸りの日々である。
 新しい日本を世界に開く意義を感じ陸軍中尉を任命されるその息子・白河義知(=佐川和正)、そしてやはり新しい世界を夢見る身体障害者の妹・雪絵(=松山愛佳)のアメリカ軍人(=星智也)に対する初恋などが絡む。先に述べたように、この恋は終幕で、彼がとんでもないプレイボーイであることが発覚して破恋するわけだ。
イギリスの貨物船が座礁沈没して船中に残され水死した25人の日本人に対する領事裁判権による差別裁判に対する反発、これは実際に1886年紀州沖で起こったノルマントン号事件として歴史的な事実だが、これは現在の強力外国と日本の耐従外交をも象徴する。
それらに対する白川家当主親子の対立、当主よりも旧い日本魂に固執する源右衛門の頑固な滑稽さ、従順だが腰の据わったその妻で女中頭の雛田カネ(=寺田路恵)、熱血漢で雪絵に岡惚れする車夫兼通訳の熊田三太郎(=沢田冬樹)等の個性豊かな存在。
息子・義知は、欧米文化を頭から拒否するのではなく、和魂洋才を示すことが本当の日本人だと言う提言をし、それを信じた当主・義晃はアメリカ夫人・アンナ・カートライト(=富沢亜古)にダンスを習う。その珍妙なやり取りが全編を展開する。
さてこの『殿様と私』というタイトルの「私」とは誰だろう? 義知とも雪絵とも取れるし、源右衛門とカネとも取れるし、三太郎ともカートライトとも取れる。つまり義晃とその他のすべての人との話だと言うことであろうか。