演 目
OUR TOWN shinjuku 2-chome
観劇日時/13.9.15 18:00〜19:20
劇団名/フライングステージ
公演回数/第38回
作・演出/関根信一 照明プラン/伊藤薫 照明操作/横佩綾
音響/樋口亜弓 衣装/石関準 
フライヤーイラスト/ぢるぢる フライヤーデザイン/石原燃
劇場名/シアターZOO

生まれた街・生きている街への愛着

 この劇団「フライングステージ」は、男性の同性愛いわゆるゲイをカミングアウトした人たちの劇団である。
 ソーントン・ワイルダーの『わが町』を原作とした舞台は沢山あるけれども、新宿2丁目を舞台にしたのは僕の知る限り初めてである。「フライングステージ」が創るには最強・最適の町であろう。
 物語は江戸時代まで遡る。内藤新宿として栄えたのは当然、遊郭としても栄えたのだ。遊女と出入りの商人との悲恋から始まって、明治・大正の遊郭時代、そして戦後の赤線・青線時代、そして58年の売春禁止法以後の、いわゆる2丁目という名称で有名になったゲイの街の時代までの2丁目の歴史が描かれる。
 説明役の舞台監督は、ここではこの街に住んだことがあり、この街とも親しい夏目漱石(=遠藤祐生)が勤めるのも柔らかいユーモァを醸し出す面白いアイデアだ。
 2丁目には当然、昔から住んでいた普通の家族も居るわけで、その若者・小森健一(=遠藤祐生・夏目漱石と兼役)と、2丁目の店にアルバイトで来た同年輩のゲイの青年・高橋大地(=小林高朗)との、このゲイの青年・大地の心情のぎこちない友情を中心に、街の変遷と、そこに住む人たち、そして現在の情況とが描かれる。 
 7人の役者は6人が現実に同性愛者である男優、1人が女優(=木村佐都美)だがこの人はレズビアンかどうかは分からない、でも女形ばかりだと現代の女性をリアルに演じることが出来ないからなのか一人だけ普通の女優がいて健一の妹ほか4役を演じる。
この2人をも含めた7人が時代に応じた様々な役を演じるのだが、それは主役の遠藤祐生)も同じで、何と彼は小森健一と夏目漱石の他にも舞台監督1も演じるし、同じ小林高朗も学生と舞台監督2を演じ、健一の父を演じる水月アキラは他に6役を演じる。
衣装は基本的に白シャツと黒ズボンで役に応じて小物を身に纏うが、基本的には無対象演技だ。無対象演技とは小道具を使わずに、小道具があるようにして演じる演技のことだ。特別に強調したいところ、例えば遊女が赤い衣装を畳んだりする場面などが有効に使われる。
 2003年のこの地のゲイを謳歌するレインボー祭りに、今は昔から住む町内の人たちとゲイ商売の人たちが協力して集まるのだが、その席に、若くして亡くなった、あのゲイの男が幽霊となって参加する。ただしこのゲイの男が死んだと言う設定は、原作に合わせようとしたような多少の無理があるような気がする。
 産まれて生きて生活する人たちと、疎外されて集まって住んで生活している人たちの、その街への愛着が、どんな街にもどんな時代にも厳然としてあることを、その街の平凡な日常の生活を描くことによって、それが生きている大きな証でもあるということを、この独特な街を通して問いかけた優しい物語であった。
 上記以外の出演者、石関準(5役)・岸本啓孝(6役)・関根信一(3役)。