演 目
霜月小夜曲
観劇日時/13.8.11. 14:00〜15:40
劇団名/札幌座
公演回数/第39回
作・演出・音楽/斎藤歩 照明プラン/熊倉英記 照明オペレーター/矢口友理
舞台監督/高橋詳幸 舞台スタッフ/札幌座 宣伝美術/若林瑞沙
制作/阿部雅子・横山勝俊 プロデューサー/平田修二 
企画製作/北海道演劇財団
劇場名/シアターZOO

人生折り返しの時

 道北の小さな街で高校時代を送った3人の女性、今ではその街で農家を営む未亡人の足立友紀(=吉田直子)、そこへかつての三人組の一人、日本各地はもちろん南米まで活動範囲を広げているらしい岩崎節子(=林千賀子)と、その誘いでやってきた札幌の高校教師・澤田睦美(=宮田圭子)。
 友紀の夫は、3人と同級生だったが農閑期に内地へ出稼ぎに行って病没し、今は亡夫とそっくりな息子・圭介(=佐藤健一)とその妹・美菜(=小川しおり)とで静かに堅実に暮らして居る。
 25年ぶりに会った節子と友紀には、亡くなった友紀の夫を巡る確執が蟠る。節子はその罪滅ぼしの積りらしいが友紀は釈然としない。間に入った睦美は何とか仲を取り持とうとするが、既に25年の時間は彼女にとっても不明の時間だ。
 だが足立家と仲の良い隣の農家・村上四朗(=木村洋次)は泰然としている。四朗の妹・麻貴(=高子未来)は無人の足立家に寝転んでいて、突然に訪ねてきた睦美が足立家の家人と勘違いしたほどの両家の仲だ。四朗の妻・敦子(=山本菜穂)は、偶然だったが札幌の高校時代、睦美の教え子だった。
 折しも北海道の農家の現状は切実で、JAの職員・加藤智樹(=弦巻啓太)が出入りしている。これがこの物語の背景として観客の心にジワリと刺さるが、友紀が新しい豆の開発に心を注ぐシーンが印象に残る。
節子の事業の相棒と称するカルロス・ホセ・及川(=彦素由幸)が騒々しくこの二家族と25年ぶりの3人の中年女性を掻き回す。
 そして回想場面に登場する人形たちの場面が衝撃的でなおかつ素敵だ。この二つの場面がエンターテインメントとして出色の出来だった。
 普通、人形劇というと、現代劇では「片手遣い」や「両手遣い」と言われるギニョール、「糸遣い」と言われるマリオネット、伝統劇では文楽の「3人遣い」八王子の「車人形」そしてやはり結城座の「糸操り」などを思うのだが、何とこの人形劇では、回想場面で俳優本人の首から下部に人形の胴体と手足を吊り下げ、腕は差し金で本人が遣い、脚は別の俳優が遣う。だからこの人形の頭は本人の顔なのだ。
 始めてこの舞台を観たときに驚嘆して作者本人に聞いたところ、本人もそのタイトルは失念したが、あるアメリカ映画の回想場面で顔は本人そのまま身体部分はアニメで表現していたのを真似たと言っていたが、その独創性が素晴らしかった。今回もそれを再確認したのだった。
 3人の中年女性たちが、チエホフの『三人姉妹』を再現するように、その台詞を随時にそのまま使って「生きて行かなければ、生きていきましょうよ!」と確認し合う。
 100年以上も前の閉塞感に圧された帝政ロシアの現実が、現在の北海道の智恵文という小村に現代風に再現されていて感慨が深い。