演 目
監視カメラが忘れたアリア
観劇日時/13.6.30 18:00〜20:05
劇団名/演劇集団 森組
公演回数/第11回公演
作/鴻上尚史 演出/森昌之 照明/池田憲昭 音響/岩井英司
舞台監督/大崎直樹 振付・ダンス指導/山田晃広 宣伝美術/白田英人 
制作/岩井英司・大崎直樹・三上真弓
当日協力/荒井康平・井上雅晴・新田智穂・渋谷あかね・野間彩乃・松澤亮祐
劇場名/たきかわホール

「管理と安全」、「規制と自由」

 世の中の至る所に張り巡らされている監視カメラの功罪というか、物語は職業として、その映像をチエックしていた警察の係官・姫岡隆司(=香河壮志)が偶然に、最愛の妻・文緒(=渋谷沙里)が渋谷の雑踏の中での不審な行動を目撃したのが発端だ。
 妻・文緒は中学生のころ、各教室にあったカメラの前で、毎週月曜日の朝、国歌斉唱の当番だったときに伴奏用CDの「君が代」が後半に突然フアンキーな曲想に転調するCDにすり替えられていたという苛めに遭った経験があった。
 この転調する国歌の話は、斎藤憐の『上海バンスキング』で、高級将校たちの面前で、「海ゆかば」を演奏中に突然ジャズに転調させるジャズメン達の話を思い出させた。この「海ゆかば」は強烈な反抗精神だが、この「君が代」は苛めの道具だ。
 この苛めの結果、売春屋に売られた少女・文緒は、その売春の証拠品を相手に叩き返して積年の思いを清算するために渋谷のある場所に行ったのだが、それは夫には言えないことだったのだ。
 警官・姫岡は学生時代に、学内に張り巡らされた監視カメラを「監視する会」を創り、その初代会長であった。彼が卒業後、彼の意志と篤い思いを引き継いだ長谷川(=前谷尚武)は、今も母校のサークル室で「監視カメラを監視する会」を8年も続けている。
 同じ場所では演劇部も盛んに活動しているので、そのライブ映像は「監視カメラを監視する会」の映像を通してインターネットで全世界に発信される。
 この文緒の少女時代と学生時代の姫岡とが、妊娠2か月の文緒と下っ端警官となった現在の姫岡との夫婦の二つの時代、「監視カメラを監視する会」と「演劇部」との共存と対立という図式を描出する説明的な演劇だと思われる。
 警官の上司は舞台装置の切り抜いた穴から顔を出す人形が台詞を言うとだけだが、その他の膨大な登場人物を9人の役者が次々と役柄を替えて演じる。
 この物語は、「管理と安全」、「規制と自由」というような微妙で大事な主題を扱っているのだが何しろくどくて長くて延々と話が引き伸ばされているような気がして真面目に懸命に演じているのに、予定調和の結末が想像できるので、早く結論を出して欲しくなる。
 この大事なテーマを一般の人たちにエンターテインメントとして提示するのも演劇の大きな一つの役割でもあるのだろうから、姫岡と文緒の過去と現在との関係を大きく表現する方が纏まるような気がする。
警官・姫岡を演じた香河壮志が現役の高校生だと聞いて非常に驚いた。とてもそうは見えない青年を好演していたからだ。
 女子中学生のイメージシーンで3人3様の個性が上手く表現されていて、それが後の演劇部や「監視カメラを監視する会」のシーンでは、それぞれ別々のキャラクターとして演じられ、中々の演技力は魅力的であった。
 その他の出演者。坪井卓也=星光一・上島ゆか=安井美沙・
荻野美紀=鈴木郁美・蒲生敬一=森昌之・林敦子=荒木知佳・吉田政子=五日市千鶴・課長=原田匡準