演 目
ホテル・ショート・ストーリー
観劇日時/13.6.7. 15:00〜16:50(途中10分の休憩あり)
劇団名/劇団 しろちゃん
上演形態/北大大学祭inS1シアター
制作総指揮/植木健介
スタッフ総勢/42名
劇場名/北大キャンパス内 高等教育推進機構S1教室

演目1  ホテル交際式 

作/須藤健太 演出/塚田雄志郎

小世界の笑劇が象徴するもの

 結婚式の予約に来た男女(=拓哉/鴨志田亮 由美/田中純那)との話が終わったところで係員・柳薫(=中野遥)は、男性だけの特別サービスがあると言って、拓哉を別室に案内し、由美の身辺調査から彼女にはドMの嗜好があるからと伝えて、その対策を勧める。
 仰天した拓哉は部屋を逃れるが、翻意した彼は裸身に鎖を巻き付け再登場する。実はホテル従業員の柳もM嗜好だった。残ったプレゼントの小箱にはリンドウの花が入っていた……
 リンドウの花言葉は、「あなたの悲しみに寄り添う」「誠実」「正義」「悲しんでいるときのあなたが好き」「貞節」「淋しい愛情」などとたくさんあるのだが、さて、これらの多面的な言葉は、このシーンではどれになるのだろうか? すべてが該当するのか? 日常のささいな人間関係の食い違いを小世界の誇張した笑劇として表現、その世界を様々な大世界に通じさせるのだ。
型通りの演技を見せる演技者たちの中で、由美を演じた田中純那の鋭く裏表に変化する表現が面白い。




演目2  ホテル五番煎じ 

作/田中伸明 演出/塚田雄志郎

オーバーアクションが描く感覚

 お忍びでホテルの映画会に訪れた総理夫妻(=加藤俊 檜山真理世)に偶然居合わせた売れないアイドル・真弓(=濱田那津子)とそのマネージャー(=藤原勝)。
 何とか総理夫妻に近づきたい真弓。総理は若き頃を思い出し恋人時代に戻る幻想……一緒に踊る夫婦に取り入ろうとする真弓とマネジャーたちは、そのまま映画会へと去って行く。
 一人残ったSP(=荒井喬碩)に妻からの電話は夕食の打ち合わせだった……
この落差が示す、あらゆる人たちに共通する暖かい感覚、男と女の関係はあらゆる世代とあらゆる階層に共通しているのか。
 オーバーアクションの演技が意識的にこういう関係性を皮肉っているのか、または賞賛しているのか、拒否する感じにはなれない。
これも小世界の小喜劇が大世界の象徴になっているのだろうか?




演目3  ホテルうそつき 

作/新田絵梨 演出/具志堅大樹

 リストカットの女子高生(=笠井成美)は大量のナイフを隠し持っている。心配して真相を知りたいボーイフレンド(=田口伸彦)…… 死へ向かう祖父母(=三浦雄人・澤口幸奈)との確執か?
 前2作とは手ざわりの違う作品、だがこれがホテルのカウンターで起こったことにどんな意味があるのか。ウソがキーワードになっているのだが、退屈した所為もあって全体に理解不能な一遍。




演目4  ホテルラウドボイス 

作/植木健介 演出/具志堅大樹

ホテルに監禁される新聞記者(=山口萌)、奇矯な言動のフロントマン(=柴野嵩大)、そして謎の女(=山下里香)。
この3人が巻き起こす騒動だが現実味が非常に薄く、マンガチックで弱い。

     ☆

全作、意欲的に創られ、丁寧で誠実な表現であり、1と2の二作品は、それなりに見応えもあり、想像力も膨らむ可能性も感じられるのだが、3・4の2作品は広がりが見られず、小さな世界に留まっているのが惜しい。
学生の劇団は年によって様々な様相を見せるのだが、今年は手応えを感じさせた。
大衆芸能にコントというジャンルがあって、それは大道具・小道具・衣装などを本格的に使って行われる演劇や芝居のような形で楽しむ笑い話なのだが、その場限りの生理的・感覚的な表現が多く、演劇のような深さが薄いのが特徴だと思う。今日のこの4作品の中、3と4とはコントに近い舞台なのかなとも思われるのだが……