DVD上映会
レオと一緒に……
鑑賞日時/03.5.18.
劇団名/えるむの森
劇場名/舞台・映写会とも「やまびこ座」

 このグループ『えるむの森』の創立会員であり、すべての作品で中心人物を演じていた榎本玲子さんが18年間の活躍の最中、昨年5月に若くして現役のままで病没した。 
今回、それらの舞台作品の中から、『あらしの夜に』と『つよぉ〜いもの』の2作品を「レオと一緒に……」というタイトルで追悼上映会が企画された。レオというのは榎本さんの愛称であるらしい。
 この榎本さんの、「えるむの森」と演劇に対する強い遺志、そしてそれを大事に思ったメンバーたちの篤い友情、僕はそれらを見つめて、集団の今後の発展に大きな期待を抱く訳なのだ。




演目  あらしのよるに 
上映時間/11.00〜12:40
上演日/11年10月29日〜30日上演の映像記録
原作/きむらゆういち 脚本/杉本明美
出演/狼のガブ=榎本玲子 羊のメィ=杉本明美
その他のスタッフ・キャストは記載なし

人の心と舞台の美しさ

 この『あらしの夜に』は、10年度のTGRで初めて観たとき、内容はもちろん表現技術も優れていて、それまで母親たちが育児の道具の一つとして演劇を使っているのだろうという偏見を見事に吹き飛ばしてくれていることに快采を叫び、規定の入賞作品以外に急遽「サプライズ賞」を作り、僕の推奨で初受賞された作品である。だから僕にとっても想いの深く強い作品なのだ。
 さてこれは記録映像だから、舞台を直接に観る臨場感は薄いが、僕は実際の舞台を何度か観ているし最近では「冒険舎」の同じ舞台も観ている。
 今度、この映像を観て思ったのは、しっかりとした物語をきちんと骨太に描いていることを再確認できたことだ。「冒険舎」はラスト近く、ガブが矛盾に悩むシーンが印象的だったと思ったのだが、今度の映像では、もっとしっかりと充分に描かれていることが確認できた。(『続・観劇片々』第40号所載)
 「冒険舎」の場合は全編が二人で演じられるために、部分的なシーンに印象が強められたのに対して、「えるむの森」は登場人物が多いので、その分幅広く描かれて部分的に強く際だったシーンとしては現れなかったのだろうか?
 もう一つ気がついたのは上演時間が1時間40分もあったことだ。僕は今までも観る度に、おそらく1時間少々のように思っていた。この差はいったい何だろうかと思う。やはり丁寧に描いているので時間を忘れて引き込まれていたのであろうか?
 ラストシーン、共生できないはずの狼と羊が究極の愛をもって共に生きていこうと決心する後ろ姿のシルエットが、ホリゾントいっぱいの満月に浮かび上がるシーンは何度観ても美しい。舞台の美しさでは「座・れら」の「不知火に燃ゆ」の不知火海岸のシーンと双璧を成す場面である。




演目  つよぉ〜いもの

上映時間/14:00〜15:15
上演日/03年11月1日〜3日 10周年記念公演
作/杉本明美&榎本玲子 その他のスタッフ・キャストは記載なし
映像を観た僕の判断は、見えない人=杉本明美 鬼の親分=榎本玲子

軽妙で確実な演技の訴求力

 母親の病気全快を祈って里のお社にお百度参りをする少女。それに同情する見えない人、見えない人は自分が見えても怖がらない少女に心を寄せて、本当に祈るなら、あの遠いお山に登って山の神様にお願いしなければならないという。
 だけど、あの山に行くには恐ろしい鬼たちの住む場所を越えなければならない。でも必死の少女は、見えない人を信じてお山へ祈願しに行くことを決心する。
 鬼には見ることのできない人が、巧く鬼たちの襲撃を避けてお山で祈願することが出来る。この見えない人と鬼たちとの延々と続く滑稽な立ち回りが面白い。古い民話のような昔話のような、暖かくて軽妙なやりとり…… 
 この作品は8年前だそうだが僕は初見で、このお母さんたちの劇団の実力に驚嘆した。3年前に『あらしのよるに』で賞賛したのは、すでに遅すぎたのだと思う。