演 目
情 熱
観劇日時/13.3.3. 18:00〜19:50
劇団名/NO LINE
脚本/青木吾朗 演出/青木一平・青木吾朗
照明/高橋正和 舞台美術/足立高視 舞台監督/辻俊英
音響/橋本一生 衣装/アキヨ ダンス指導/MIZUKI
ダンス振付/能登屋駿介
WebCM製作/宮本祐輔 フライヤーデザイン/戸澤亮
劇場名/サンピアザ劇場

死に直面して起きる生きる情熱

 高杉優作(=戸澤亮)はダメ男で会社はリストラされ、それを日常的に無視されている強い妻・陽子(=田中温子)にも言えず、普段クソオヤジと相手にされていない、心(ココロ)と言う名前の息子(=白鳥雄介)にも当然、話せない。
 優作は万策尽きて一人ツアーの海外旅行に出かけたが、そのとき心は高校の卒業記念のバンド・ライブのメンバーに選ばれる。だが心もそれほど積極的な関心があるわけじゃない。
 優作の搭乗した飛行機が、中東のムフランという独立国の軍隊にハイジャックされて気が付くと後ろ手に縛られて銃を構えた監視役(=佐藤亮一)に監視されていた。
 優作の他は、黒崎(=青木一平)というお調子者の元・ヤクザ、マイヤー(=能登屋駿介)という日本でミュージシャンをやってるアメリカ人、柴田透(=青木吾朗)と柴田りん(=田中温子)の兄妹、りんは22歳なのに精神年齢はほとんど5・6歳の幼児だから無邪気で可愛い。たった一人の肉親と暮らす透は、りんが無性に大事だが本心の片隅ではいささか重荷であり、このツアーを最後に二人で心中を図っている。そして陽気な中国人のポーさん(=竹原圭一)。
 この拘束された6人はいずれもまともな普通の生活人ではないが、それは劇の展開の中で少しずつ分かってくる。この人物設定の特異性がこの戯曲のミソなんだろうが、それがだんだんに分かってくるところが面白い。
 もう一つの魅力は、心の同級生(=佐藤亮一)たちや女教師(=竹原圭一)、軍のボス(=竹原圭一)などが次々と役を替えて登場することだ。その極めつけは強い妻と可憐な幼女風の若い女性の二役を演じる田中温子だ。分かってはいてもふと気が付くと違う役をやっていて、同じ役者だとは信じられない演じ分けには驚嘆する。
 りんは餓死し、ポーさんはムフランと内通していたのを断ち切ろうとして脱出に失敗し射殺され、脱出を目論んだ3人は次々と射殺され、優作だけはインターネット公開で処刑される。凄惨なシーンのリアルな展開だ。
 ムフランは日本とアメリカに莫大な身代金を要求したが、テロには加担しないという両国の回答により死刑執行が行われ公開されることになったのだ。
 インターネットでその状況を視る妻と心は、人命よりも国是を優先する非情な国家を呪いながらも、かつて婚約した当事の幸せや、平和だった3人の家庭を思い出す。
 処刑のとき最後に言うことはないかと問われて優作は、音痴な歌声で『情熱』を唄う。ボスの遮りを跳ね除ける監視役が心情として優作に加担するが虚しいだけだ。