演 目
ゆうやけこやけ
観劇日時/3.02.24. 13:30〜14:30
劇団名/妹背牛町民と介護事業所の皆さん
脚本・演出/渡辺貞之 メークアップ/山上佳代子
音響/滝本昇司 照明/宮田哲自
プロデユーサー/河野和浩
劇場名/妹背牛町民会館

『二十二夜待ち』に連なる「仏さまに近い人」

 妹背牛町で上演されたいわゆる町民劇で、複数の認知症の老人たちを巡る話を、前後に関連させながらオニムバス風に綴った劇である。『ゆうやけこやけ』とは人生の終焉に近づいた人たちも、明日はきっと晴れるだろうと言う願いが込められているのだという。
 作者によると認知症と言われる人は、今から百年ほど前までは「仏様に近づいた人」として敬ったそうで、そういう人にも当然プライドがあり、人として尊厳されなければならない、と説く。この劇はそういうコンセプトで描かれている。
 話の中で失業者が認知症の老人夫婦を脅して金銭を強奪しようとするが、その意図を飲み込めない老夫婦は勘違いして、逆に自分たちの粗末なお弁当を御馳走してしまう。
 そして老婦人は、強盗と故郷が同じと言うことを知って親近感を抱く。強盗は里心が急速に湧き上がって相棒と一緒に帰郷を決心する。
 『海流座』の『二十二夜待ち』のとき、「性悪人も本質は善人だ」というタイトルで一文を書いた。今日、この舞台を観ていて、この強盗と老夫婦のくだりが『二十二夜待ち』とまったくそっくりなのが微笑ましく思われ思わず微笑が漏れた。『二十二夜待ち』の藤六の祖母も、きっと「仏様に近づいた人」なのであろう。
 町民劇としては高度な表現力を持つ素敵な舞台を創ったが、特に刺激的だったのは、釣りの老人が垂らしていた糸の先に吊り下げられるべき古靴が不注意で外れているのに気づいた河原に居た野球少年役の一人が何気なく結んだことだった。舞台下の客席前方だったので、おそらくこの仕草に気付いた観客は居ないだろう。この少年は舞台というものを良く知っていると心が躍ったのだった。
 この舞台は全くの素人さんたちが創った舞台作品で、もっとも作・演出の渡辺貞之氏はアマチュアとしての長い実績はあるのだが、いわゆる中央の指導を受けなくても、これだけの舞台が創れるということは賞賛に値する。
 もちろん演技的には例えば無駄な動きなどが散見されるが、これはおそらく稽古の時間が足りなくて不十分のまま本番になったと思われる。しっかりと時間をかけて稽古をすれば解決する問題だと思われるが、一方で、町民劇の限界かもしれないという気もする。