演 目
熱海殺人事件
観劇日時/13.01.14. 17:30〜19:00
劇団名/劇団アトリエ
公演回数/第7回 名作劇場1
作/つかこうへい
演出/小佐部明広 照明/増田好乃美 音響/関屋奏斗
制作/細谷史奈 受付/小池瑠莉・有田哲 宣伝美術/小佐部明広
劇場名/レッドベリースタジオ

高度成長経済期の優しい物語

 警視庁の伝説化された名刑事・咥えたばこの木村伝兵衛部長刑事(=ビルタテル)を慕って、新潟県警から赴任した新任の熊田留吉刑事(=小山佳祐)と、伝兵衛の部下の婦人警官・水野朋子(=柴田知佳)、そして殺人犯・大山金太郎(=伊達昌俊)までをも、伝兵衛はスパルタ教育をしてまで、自分の思い通りに仕立て挙げるという方法で教育をして行くという物語と思う。
 この物語の展開の中では、伝兵衛がなぜ犯人・大山を自分好みの格好の良い殺人犯に仕立て上げようとするのかが良く分からない。伝兵衛独特の思い込みによる犯罪美学のようにも思われ、それも一種の存在価値としてあるのかなとも思うのだが、大山が得心していく過程で、これは伝兵衛のある優しさかなとも思われる。
 そして、底辺の貧しい女工員(=婦警が演じる)と、しがない工員・大山金太郎との恋の破綻。これも時代の歪から出た悲恋だが、ここに伝兵衛の彼らに対する、ある優しさが感じられる。 
 それらの物語が、極端な過激表現によって高揚感を盛り上げ、一歩間違うと拒否されかねないような「静かな演劇」と対極にある演劇だ。失礼だが美男美女とは言えない登場人物たちにリアレティがあるので、全編、怒鳴り散らし合うような演技が逆に現実性を持つのだが、ビルタテルが小柄なために伝兵衛の存在感が弱いのがとても気になった。
     ☆
僕は、演劇は戯曲を創るところから始まるべきだという確信があるのだが、逆に最近、僕のいう「近代古典」を上演する試みが盛んなのは、やはり戯曲の核心を現代に蘇らせる、こういう舞台の魅力にも大きく期待が高まるのだ。