演 目
ナイロンのライオン
観劇日時/12.12.20. 14:00〜16:10
劇団名/スーパー・エクセントリック・シアター まいかプロデュース
作・演出/ラサール石井 音響/野中明 照明/池田圭子
舞台監督/大河原敦 宣伝美術/石原詞郎・栗原功平・
制作/鈴木庸子・山下貴代美
劇場名/東京・中野 テアトルBONBON

ナイロン使いのライオン、ユニークな女性の一代記

 57年前、戦後10年が経って、ようやく復興が始まったころ、新聞記者だった一人の女性・鴨居羊子(=山口麻衣加)が一念発起して女性の下着に革命を起こした。それは経営というよりも一種の芸術作品だったのかもしれないという視点で描かれる。
 終生のライバルとなるワコーの社長・塚本氏(=木村靖司)が彼の経営哲学と対立する形で重要な役割を担うが、作者がいう通り、これは単なる伝記ではない。事実は10%で9割はフイクションである。ナイロン製の下着に賭けた二人の王者、つまりはナイロンのライオンであろうか。
 芯になるのは彼女の生き方である。愛情には縦と横があり、自分は横の愛情を信じるというのだが、それは男女の関係にすると様々な人々と愛情の交換をすることだと豪語する。それに対して、縦の愛情とは一人の男を終生に亘って愛し続けることなのだ、と。
 だから彼女は、自分が考える女性の下着とは、それを身に着けることによって心が自由に開放されるような色と形が肝要なのだという自意識を第一にする。
 それに対してワコーの塚本氏は身体を補正するのが下着の基本で、それによって塚本氏は巨万の富を築いた。
 二人はお互いを認めながら互いの主張を譲らず生涯のライバルであった。
 もう一人生涯の盟友がいた。それは広島の被爆者でありながらそれを隠して、羊子が最初に下着の展覧発表会でモデルを務めたヌードダンサーのミサコ(=丸山優子)である。
 それから長い盟友関係が続くのだが、ミサコが被爆後に岡山に逃れた時にヤクザに拾われたのだが借金を残して大阪に逃げた過去が追ってきた男の出現で露わになる。
 そのころ羊子は行き詰まった画家の弟のこともあり、新しい下着のコンセプトも行き詰まって会社を整理する決心だった。
 塚本氏は羊子自身が画家に成りたかったのだが経済的な事情もあり下着メーカーを目指したのではないのかと喝破する。
 そのときミサコは被爆症が進んでいたが、それを隠して羊子に付いていくと必死に羊子の翻意を促す。実はミサコはもう一人の協同者モリシマ(=江端英久)が故郷へ帰って自立する予定で、ミサコに同道を申し込んでいた。
 ミサコもまんざらでもないが、やはり羊子との間で悩んではいた。それとなく察した羊子は、懇願するミサコにモリシマに付いて行けと諭しながらもみ合った末、ついに「放射能が移るから出て行け!」と怒鳴る。
 このシーンは『不知火の燃ゆ』で、母親が心配する娘に「邪魔だから出てゆけ」というラストの言葉に匹敵する、心ならずも発する逆な表現による愛情の言葉だ。
 だが、いま東北の被災者が観たらこのシーンを一体どう思うのだろうか……
 羊子は、犬猫それも野良が好きだったので良く野良犬や野良猫と会話して遊んでいたという逸話があって、この舞台でも、交互に犬や猫になり鳴き声を出しながら絡んだり道具の出し入れをしたりするのが頬笑ましいシーンを演出している。  
 その他の出演者である、野添義弘・三谷悦代も含めて総計6人が様々な役柄を演じる。