演 目
そらち演劇フェスティバル
観劇日時/12.12.8. 12.12.9.
公演回数/第3回
劇場名/深川市 文化交流施設「 み・らい」

 空知にある、美唄「WA!」・砂川「一石」・滝川「市民劇」・深川「深川組☆48」とゲストの富良野「へそ家族」の5市民劇団が共演する催しが持ち回りで3年目を迎え、今年は深川市で2日間に亘って上演された。
市民演劇って何だろう? 北海道の開拓初期に行われた地元芝居って何だろう? おそらくその芝居の期待を今も背負っているのが市民演劇なんだろうなあって思う。
市民劇団の表現には二面性がある。自己表現か、表現を道具に使った別の形の自己表現か? 市民劇団とは、その責めぎ合いの存在だ。
それぞれの観劇感想と最後に総評をお伝えする。


演目1  火星から来た女の子 

観劇日/初日 観劇時間/16:30〜17:30
劇団名/美唄市市民劇団 劇団WA!
脚本・演出/弦巻啓太 
照明/池田憲昭 音響/齋藤翔・高山大輔
制作/山本牧伯・小室明子 
制作助手/坂本優伽・宝崎佐和子・宮澤あゆみ

現実世界の縮図

 架空の市民劇団に新しく入って来たのは、火星人の兄(=能登英輔)と妹(=岩淵カヲリ)だった。彼らは住めなくなった火星を捨てて宇宙の様々な星を何億年にも亘って住み変える中に感情を失って合理一辺倒の生物になり、この美唄を武力を持って占領するか、火星人の奴隷になって人間の感情を捨てて安楽に生きるかの選択を迫る。
 美唄人にとっては、まさに不条理な選択だ。不条理な現実の中で苦しくてもその土地で生きて死ぬのか、故郷を捨てて屈辱の中で生きるのかの選択を迫られる現実の世界の縮図だ。
 劇団員たちの意見は割れる。故郷を捨てても人間として生きるのか、人間の感情を捨てても物質的に安定した火星人の奴隷として生きるのか。
 だが劇団の団長の愛を受けたと思った火星人の女性は徐々に人間性を取り戻し、一人の女性団員(=吉田純子)は40年前に、この美唄へ移住して火星人の移住地とするべく活躍した火星人だったのだが、今や確実な美唄人として物質的には必ずしも恵まれないのだが豊かな日々を送っている。侵略を通告した兄もその影響で美唄人として生きる道を選ぶ。
 僕は、リーデングとは稽古の途中を一般公開するものだと思っていたのだが、作・演出の弦巻氏によると、アマチュアの演劇にとって大切な基礎訓練の段階で、今回は時間がかかり過ぎて完成までに至らず、こういう発表形態をせざるを得なかったそうだ。確かに未完成だが、台詞は的確に最低のリアリティを維持して飽きさせない表現力で観客を魅了していた。
 弦巻氏は前説で、「リーデングとは19世紀末にリージング伯爵がこういう形態を考え出し、それは演劇とは創る人間たちではどうすることも出来ない舞台を、演劇の神がその輪の中に降臨するチャンスを受け止める儀式として公開するという形を始めて、現在はリーディングという名称に変化して続けられている」と解説した。
 僕は初めて聞いたので感心していたが、最後に弦巻氏は「これは僕の妄想です」と言ったので、満場爆笑だった。
 リーディングという発表形態をユーモラスに説明した一種の演出であって、やられたという微苦笑であったが悪い気持ちはしない。
 その他の出演者。池田淳也・田岡孝仁・細川多紀子・石田七枝・金子ちあき・
杉村真也・宮澤里緒



演目2  雨 

観劇日/初日 観劇時間/18:00〜19:00
劇団名/砂川市民劇団 一石
原作・脚本/南出ひろみ 脚色/一石
演出/干場美恵子・一石 
制作/鈴木みどり・岩渕みゆき
音効/渡辺英記 照明/佐藤寛巳・谷岡永光
舞台/佐藤淳・沢井裕樹 
舞台監督・演出/干場美恵子

人情喜劇

雨が降る日々、喫茶店に屯する女3人(=角丸礼子・渡辺志織・三谷小春)。失業してホームレスになった男(=鈴木伸之)が最後の晩餐で千円持ってこの喫茶店へ来る。
勢いで強盗をやってしまった小心の男(=田村智)もパトカーに追われてこの喫茶店に逃れこむ。
刑事2人(=谷岡真樹・斉藤尚郎)が捜査で入って来る。隔てなく迎えるマスター(=西川悦郎)とおっちょこちょいのウエイトレス(=鈴木由乃)。そして飄々と何気なく出入りするお爺さん(=岩下正法)、この人たちが巻き起こす人情喜劇、マスターはすべてを察しながら帰りに傘を貸す。「止まない雨は無いよ」と言いながら……
芝居のテンポが遅くて眠くなる。カーテンコールで全員が借りた傘を返しながら登場し、マスターは「さあ、美味しいコーヒーをどうぞ」と勧めて終わる洒落たラストではあっが……



演目3  どんぐりと山猫 

観劇日/2日目 観劇時間/15:00〜16:00
劇団名/滝川市民劇
脚本・作/宮澤賢治 作曲/萩京子 
演出/伊藤明子 演出助手/森昌之 
スタッフ/岩井英司・高橋房恵・香河美和 舞台美術/杉吉貢
合唱指導/三浦恒義・横井美和 振付指導/山田荘司
制作/長田千秋 照明/岩ヲ脩一 音響/大江芳樹
舞台/百瀬俊介・池田憲昭
ピアノ/浅井万紀子 マリンバ/安原えみり

賢治世界の魅力再現

 このお話には様々な解釈が成り立ち、様々なアレゴリィが言われる。ごく普通には、衆愚民主主義の欠陥だが、逆に衆愚こそ民主主義の根幹だとも言われる。
 仏教の教えとして、一種の自己否定こそがすべての平和の根幹だとも言っているようでもある。
 そんないろんな思いの詰まる輻輳的な物語、しかもほんの短い物語が、諧謔味の溢れる語句と進行で展開されるお話なのだが、この舞台は、その賢治童話の味を洒落たしかも抽象的な音楽を使って現代味の強い味で表現した。
 賢治が現代に生きていたらもしかしてこんな表現をしたかもしれないとでもいうような舞台が出来た。素人の表現力に感嘆する。
 欲を言えばドングリたちはもっと大勢の登場がほしかった。合唱団の人たちもドングリとして登場して欲しかった。
出演、杉吉港・高田依里・堀江大輔・佐藤芽衣・高橋佳大・松平華織・三浦恒義・
宮田あさひ・高橋恵佳・磯敏子・新國志保・原紀子・松野京子・原亜祐美・
横井美和・池田優花・小田原朱里・高橋日佳・中川響生・林暖茄
牧野紗弥香・叶内都愛・角田葵・伊藤周・高嶋寧音・疋田陸



演目4  みずのかけら 

観劇日/2日目 観劇時間/16:30〜17:48 
劇団名/富良野市民劇団「へそ家族」
脚本・演出/太田竜介 照明/志賀由佳 音響/太田文

ある家族の存在にみる社会劇

平和な4人家族の朝、それぞれが勝手な動きで落ち着かない。パート清掃員の妻(=長谷川薫)、失業を隠しヤケ釣りをしている兄息子(=増田大五郎)、高校生の妹娘(=櫻庭真彩)たちの、それぞれ日常の生活が始まる。父親(=原正明)は休日でのんびりと、しかし口うるさく家族を叱咤しながら新聞を読んでいる。
 とても具体的で滑稽な描写が延々と続くのだが、それらの風景がすべて一種の社会風刺の情景になって笑いが起きる。
 いつの間にか、それぞれの点景とも見られたシーンが繋がりラストは元の朝の食卓になっている。だがそこには父親は居ない。彼はあの後急死したのだ。残った3人は、改めて家族の存在の意義を知る。コメディで描いたありきたりだが在りうる家族劇である。
 その他の出演者、樋口一樹・松木政治・志賀光・志賀中・中島吾郎・太田千秋・デミアンオケイン・佐々木恵理子・長野由香利・藤田シゲ子・藤田美緒・高玉ひろみ・
中野あすか・会田サキ・太田結希



演目5  ご存知水戸黄門大活躍!! 深川組 Ver.

劇団名/深川組☆48
脚本/渡辺貞之 潤色・演出/菊地清大
音響/助安正樹 照明/宮田哲自 
スタッフ/竹内啓・盛本和志・児山幸江・植田奈々佳・小室耀・拓殖短大の有志 
衣装/山上佳代子・村上陽子

舞台と客席が一緒に楽しむ

テレビドラマを基本に滅茶苦茶に構成したハチャメチャ舞台だが、勧善懲悪の基本的な物語はしっかりと押さえている。
 遊び心が満載で、緊張が分るスタッフ12名・キャスト26名はもちろん客席も大喜びで、こういうスタイルの、一種の演劇を道具に使った楽しみや団結心の養成や、特に6歳から・小学・中学・高校生・大学生、そして85歳の老齢まで老若男女の縦の関係が素敵だ。このユニットは深川在住の6つの劇団からの希望者で構成されているのだ。
演出の好みが大きく出たオーバーアクションが気になるが、それは付け足した部分であることは、以前にこの脚本を提供したオリジナル演出を観ている僕にはよく判り、その他の基本部分は全編に亘ってキチンと隙なく創られている。
出演者/水上明・吉田雄飛・大野将介・小川千里・
平野榮松・中村淳貴・高田イサ子・桜庭忠雄・澤田早苗・高田祐貴・佐藤武嗣・宮田千晶・中村真奈・香川穂波・千石里穂・宮田あさひ・野原綾華・村上琴音・村上紫音・塩田ひより・村上莉一・高田のぞみ・
菊地清大・佐藤自真・新田佳代・岡部優里