演 目
十二人の怒れる男たち
観劇日時/12.11.29 13:30〜15:40
企画・制作/俳優座プロデュース
公演形態/旭川市民劇場 12年度11月例会
作/レジナルド・ローズ 翻訳/酒井洋子 演出/西川信廣
美術/石井強司 照明/桜井真澄 音響/小山田昭
衣装/山田靖子 舞台監督/泉泰至 演出助手/道場禎一 宣伝美術/勝木雄二
劇場名/旭川市民文化会館 小ホール

疑わしきは罰せず、骨太の正当派リアリズム演劇

 実の父親を殺害した容疑で裁判に掛けられた未成年の少年の陪審員審議の一部始終を再現した会話劇である。会話劇といっても、途中何度も暴力寸前のシーンが現れ、まさに一触即発の場面だが周りの人たちが危ふく実力で食い止める。
 観ていて感心するのは、暴力寸前になりながら、辛うじて食い止め何とか無事に納めようとする周りの人たちはもちろん、暴力に訴えようとした本人自身も辛うじて矛を収める、いわゆる言論民主主義の熟した素晴らしさだ。これがなければ、この芝居自体が成立しないからだ。
 当初、たった一人この容疑者の無罪を主張すると言うよりは、有罪と判断した証拠の確実性を疑問視して有罪に反対した陪審員8号の建築技師(=松橋登)だって自信を持って無罪を主張したわけではない。有罪にする証拠に微かな疑問があったから「疑わしきは罰せず」の原則論で疑問を呈したに過ぎないのだ。陪審員の評決は全員一致が原則だ。
 細かな証拠を巡って何度も激論を繰り返す。陪審員の中には早く審議を終えて野球の試合を見に行きたい食料品のセールスマン(=高橋克明)や、気弱で自分の意見をキチンと言えない銀行員(=大原康裕)、他人の意見に流されやすい広告代理店のコピーライター(=松島正芳)だっている。
 この場の議長を勤める高校のスポーツコーチの陪審員1号(=大滝寛)だって、それほど確たる信念がある訳じゃない。何とかこの審議会をまとめようとするのだが一度は投げ出す。 
 わりと冷静なのは、株の仲買人(=阿部勉)と老人(=小山内一雄)と移民の時計職人(=里村孝雄)である。
 そして最後までちょっと感情的なまでに執拗に有罪の意志を曲げない中小企業を築き上げて裏切った自分の息子を恨んでいる社長(=三木敏彦)と、スラム出身者に偏見の強い中小企業の社長(=外山誠二)。彼らは論理的というよりはむしろ感情的な理論だ。看護師(=井上倫宏)とペンキ塗装職人(=岡田吉弘)は、出身と職業的な卑下で静かだが、言うべき時には訥々と主張する。
そういう個々の具体的な職業や立場や人間性を細かく描写しながらそれぞれが自己を強く述べ立てて衝突しながら徐々に論理に納得したり、必ずしも納得しなくても反論が出来ずにしぶしぶと認めざるを得なかったりする過程をスリリングに展開する。
 そして最後には半ば感情と理論の挟み撃ちのような展開で収束する。一種の言論民主主義の結論であろう。
 旧いが重厚な裁判所の閉じ込められた実験室のような雰囲気の一室、冷房もなく扇風機も故障のような蒸し暑い部屋の窓外には、やはり旧式で重厚なビル群が見え、議論が沸騰すると豪雨と雷鳴が鳴り響く。定番といえば定番、典型的な造りの舞台であり、情緒の強い、だが納得のゆく議論の結末であった。
 他に、密室の要件を聞くために出入りする守衛(=高塚慎太郎)が出演する。