演 目
不知火の燃ゆ
観劇日時/12.11.24. 18:00〜19:30
劇団名/座・れら
公演回数/第7回公演
作/鷲頭環 演出/戸塚直人 舞台監督/寺沢英幸
舞台美術/高田久男 照明/鈴木静悟 音響効果/西野輝明
衣装・振付/小山由美子 演出助手/櫻井健作 手話通訳/舞夢サポーターズ 
どら焼き/吉田菜穂子 道具協力/太田勝司・桜井和義
制作/大内絵美子・青木通子・吉田菜穂子・堀裕幸・鈴木喜三夫
劇場名/サンピアザ劇場

静かで強い告発

 物語は、高度成長経済の時代に美しい不知火の海辺で静かに穏やかに暮らしていた人々が、原因不明の奇病に取り付かれて少しずつ苦しみ、最後にはあんなに豊かだった故郷を捨てざるをえず、命まで落とさざるを得なかった悲劇を淡々と描く。
 だから、この舞台は現在、世界中に蔓延する物質的豊かさの元にある基本的な矛盾を静かに告発する。そして当然それは今一番関心を持つべき原発の恐ろしい未来の現実までをも告発するのだ。それを直接に声高に言わないところが、この舞台の真骨頂であり、これが演劇だと思う。何も知らず、何も知らされなかったと言い切れないのだ。
 様々なシチュエーションの中での様々な苦悩が、それとなく描写されるのだが、その一つ一つのシーンが伏線となってラストの母親の子どもたちに対する絶縁宣言に繋がる。 
 そのお互いに解りあっていながら絶縁宣言するラストシーンはあくどいと思いながらも訴える心情は強い。
昨秋の初演で、演劇は客観的に観るように努めている僕としては珍しく泣いた舞台であった。それほど激しく感情移入させる訴えの強い芝居であったのだ。
 普通、劇中では病気で寝ていた俳優さんも死者の役の俳優さんでさえも、カーテンコールでは素の役者に戻って挨拶をするのだが、今回の舞台では、終演後のカーテンコールで、全く身体の自由の効かない今日誕生日を迎えた妹役の女優さんが、兄役の俳優さんに抱えられて挨拶に出てきたのは、実にこの舞台が現在の現実に続いているのだというアピールであり、全く台詞もなく演技もなくひたすら舞台に居るだけのこの役が、現在に通じる現実の、すべてを表現しているのだということを改めて強く確認した。
 ただ昨秋の初演で観た舞台一面の不知火の息を飲むような美しさが、今回は劇場設備の関係か、やや見劣りしたようで残念だった。
出演は、祖父=澤田謙・母=竹江維子・長女=玉置陽香
長男=前田透・三女=フクダトモコ
長女の友人の母=小山由美子 長女の婚約者=信山E紘希
近所の主婦=松永ヒサ子 配達に来た米屋の主人=西野輝明