演 目
全身sweets 君と雨に生きる
観劇日時/12.10.6. 15:00〜16:30
劇団名/coyote
上演形態/旗揚げ公演
脚本/亀井健 演出/オバラアヤコ 音楽/横井まう
照明/上村範康 映像/小林雄大 コモン/ヤシマミホ
舞台美術/原ななえ 衣装・メイク/大坂友里絵
フライヤー絵/柴田智之 coyoteロゴ/林啓一
ご飯/長谷川エミ
劇場名/札幌中央区 第2三谷ビル6F oyoyoホール

レトロな舞台での昭和の挽歌

 旧いビルの6階にある少し大きめの応接間のような部屋、低い天井にはめ込まれた斜めの天窓からは秋の午後の生温い斜陽が落ち込んでいる。
 ドアの外にはこれも斜めに張られたガラス屋根に覆われた、野外に造られた温室のような住人専用と思われる狭い通路に通じる。古くさく懐かしいような建物の一隅だ。
 その小さなレトロな造りの部屋が舞台で、そこはそのまま応接間であり、そこへ得体の知れない糸(=亀井健)という男と、椿(=升田千尋)という女が流れ込む。そこに居着いた二人は何となくそこでホテルを開業する。  
 話の流れも展開もまったくリアリティがなく、幻想の童話的な物語りであると同時に、ダイアローグも日常的な会話ではなく、良く言えば幻想的・象徴的であるのかも知れないが、悪く言えば支離滅裂で捉えどこのない会話が延々と続く。
 そこへ民(=ナガムツ)という女が現れ、従業員となるのだが相変わらずトンチンカンで非日常的な、良く言えば抽象的・音楽的な会話が交わされて、ホテルの業務はまったく行われない。
 舞台隅に座った横井まうは終始、旧い見慣れない弦楽器を演奏しレトロな雰囲気を醸し出す。
 ピエロのようなサキソホーン(=烏一匹)が現れ、無言で演奏する。ダンサー(=スズエダフサコ)がコミック・ダンスを踊り、彼女の恋人だったらしい日本陸軍の軍人(=澤村和明)が狂乱の態で現れ、糸と刺し違える。
 過去と現在との永久に交じ合えない悲劇なのか? 全員は昭和のテイストの強い、パーティの喜びを歌うのだが、その歌詞の中には、「……今宵は楽しいあの世のパーティ、明日は悲しき浮き世の記憶……」とある。
 平和な庶民の歴史と、その逆の歴史の流れをさり気なく、しかし大胆に描いたとも言える、だが現代風で難解な表現の中に、まさに懐かしくも哀しい昭和の挽歌が幻のごとく浮かび上がるのだった。
 再出発した亀井健が創った新しい集団で、その戯曲の新鮮さと分かり易さとは共感できるのだが、演出のオバラアヤコは何故か亀井健の韜晦するような自己の世界に閉じこもるような表現方法をそのまま踏襲したような、ちょっと物足りない舞台だったことは少々残念であった。