演 目
LOVE30
観劇日時/9.22.14. 
公演団体名/北翔大学 舞台芸術2年目試演会  演出・舞台監督/信山紘希 音楽/神崎麻梨香
照明/臼井千尋 舞台装置/中西大樹・佐藤香菜・市川篤
劇場名/北翔大学内 カレッジホールPAL6階


 この『LOVE30』とは、2006年11月、東京パルコ劇場他、大阪・名古屋で宮田慶子の演出により、男女二人の物語を新進作家3人の作品でオムニバス形式で上演されたものである。

演目  スパイス・イン・ザ・バスケット     作/三島ゆき  上演時間/14:00〜14:40

旧い愛は戻らなかった……

 3年前に離婚した中学の教師で絵描きの利賀(=尾谷拓哉)は一人暮らしながらも充実した日々であった。そこへ突然、元妻の未来(=山崎亜里紗)が現れて500万円を貸せと強圧的に言う。
 彼女は売れない作家で、何故か再婚してさらに離婚した相手に慰謝料を要求されているらしい。だが今日は利賀の新しい恋人が初めて利賀を訪れる日であり、利賀は得意の料理の腕を振るっている最中であった。
 未来は、そんな利賀にいちいち些細なクレームを付けるのだが、それは恐らく彼女の嫉妬であるようだ。
 だが、手荷物まで送り付けてきた彼女も、最後には空元気で辞するしかなかった……



演目  兄への伝言      作/蓬莱隆太  14:43〜15:18

古い愛の戻らない関係

 兄・誠(=信山紘希)は若い頃、実家を弟・クニオ(=遺影のみで登場せず)とその妻・佐和子(=滝田千穂)に任せて東京へ出た。元々3人は幼馴染みの仲良しだったのだが、それ以来20年、誠は実家の弟夫婦とは疎遠になっていた。
 弟が急逝する。誠は悔やみには来るが何故かよそよそしい。佐和子は屈託なく歓迎するのだが誠は帰りを急ぐ。
 その時、佐和子は亡くなった夫から託された一通の厳封されたメモを渡す。不審気にそっと読んだそのメモには「トンカツ・トリカエタ」とあった。
 誠は思い出す。実は誠も弟も佐和子が好きだったのだ。兄弟は佐和子と3人で一緒に行ったレストランで同じトンカツを注文し、トンカツの大きな方が佐和子にプロポーズしようと約束する。その結果がこの20年だったのだ。
 その話を聞いた佐和子は動揺する。そんな密約を知らなかった佐和子は、自分のトンカツが一番大きかったので、誠がトイレに立った隙に自分とクニオの分を取り替えたのだと言う。クニオはそれを知っていたのだ……
だが意地の悪い僕は、佐和子は本当にその密約を知らなったのだろうか? イヤむしろ佐和子はその密約を知っていてトンカツを取り替えたんじゃなかろうか? と考えると興味が深い。
 佐和子は、本当はどちらかと言うとクニオより誠の方が好きだったかも知れないとも言う。本当にそうなのか?……だから誠は孤独に上京したのか……そして意図的に疎遠になっていたのか……魑魅魍魎の男女関係、しかも兄弟同士の水面下の確執の複雑さを感じさせる話だ。
 誠は佐和子に東京へ来ないかと申し出る。佐和子は保母の仕事を続けたいし、何よりいま高校生の娘が佐和子の後を継いで保母になりたいのを傍で見守りたいと言う。万感を残して二人は別れる。
      ☆
 二つの物語は、いずれも男女の人情の細かな機微を奥深く描き出すいわば大人の芝居だ。まるで僕が50年以上も前の一時期に愛読した「小説新潮」や「オール読み物」の中間小説といわれたみたいな感触で、学生が創る演劇としては相当、肌違いな舞台で異常な興味が感じられた。予告にあったもう一遍のサタケミキオ作『結婚相談所』が上演されなかったが、3つ揃って密かな男女の3つの物語を意図したらしい。だが何故それが上演できなかったかが知りたかった。演出も途中で交代したとあるが、それも関係があるのか……