演 目
あした氣がふれたい
観劇日時/12.9.1. 17:30〜19:30
劇団名/イナダ組 作・演出/イナダ
照明/高橋正和 音響/奥山奈々 舞台デザイン/野村たけし 舞台製作/ドットライン
衣装/熊木りさ・服部悦子・村山さと 小道具/中村ひさえ 宣伝美術/山田マサル 舞台部/清野草太・山本秀一
制作/小柳由美子・岡田真由美・田中絵梨・澤田未来・稲村みゆき・一ノ瀬沙綾
劇場名/コンカリーニョ

心の闇が現れたのが人間の業

 過疎地の松古二町では、観光課の課長・伊井坂修造(=武田晋)を中心に、陣羽織裕介(=城谷歩)、張本頼子(=佐々木くるみ)たちが、死の誘惑を秘める伝説のある洞窟を、逆に観光地として売り出そうと、ミユージアム「洞窟館ほら!?A〜NA」を造ったが効果なく、館長・平沢正雄(=高橋隆太)、職員・西尾るみ(=吉田諒希)、同じく難波聡(=川口岳人)らが、次の手を模索中だ。
 そんな中、東京から映画製作ロケハンの触れ込みでプロデユーサー・山根あけみ(=山村素絵)、ステーシー(=アイシス)と新台実(=猪股五郎)らが来る。
 山根あけみは伊井坂の実の妹で、伊井坂の妻・佳織(=庄本緑子)の同級生だが、17年ぶりの帰郷でもあった。
 町で唯一の憩いの場「スナック来無来人」には、この町のことは何でも知っているゲイのママ・美鈴(=佐藤剛)と、カウンターガールの太田原ユリ(=畠山舞)が居る。
 観光課の事務室、洞窟館事務所、妖怪な鬼気を感じさせる伝説の洞窟の入り口、来無来人、そして伊井坂の自宅などを舞台に次々と暗い事件が起こる。
 タイトルに旧字の「氣」を使ったところに作者の思い入れというか、レトロな時代の雰囲気を感じる。
 ステーシーに横恋慕した陣羽織裕介は、嫌がる気の強いステーシーを追い詰め、ついには洞窟の入り口で絞殺してしまう。それを知った伊井坂修造は、流れの中で助成金のもつれから難波聡を絞殺し、陣羽織裕介と佳織に協力させて二人とも洞窟内の底なしの沼に沈めてしまう。
 17年前に20前後だった山根あけみは強姦の被害に遭いそうになったとき、それを知った平沢正雄は相手の男を殺傷して4年の拘置所暮らし、それを機にあけみは音信を絶った。
 出所後、平沢は洞窟館の責任者になったが、平沢に引け目のある伊井坂は何くれと平沢の言い分を飲み込んできたが、平沢はそれを良いことにいささか無理難題を持ちかける気味があった。
 一方、伊井坂修造は、妻・佳織に対して一種のDVの傾向があり、不気味な暴力が振るわれる。それを承知の上で伊井坂と佳織は強い愛情で結ばれているらしいのだ。
 だが無理が祟って、やがて佳織は怪しい宗教にのめり込み、相変わらずこの町の伊井坂家でスルズルと暮らす新谷実も、いつの間にかその手伝いをしている。
 さらに同級生である山根あけみと佳織の間にも何かの確執があるらしい。
 ことほどさように陰湿で暗い心情が3人の殺人とDVという場面で表現される。それは観ていて嫌悪を感じさせる状況の連続展開なのだ。
 おそらく現実には起こりにくい事件のようにも思えるが、この連続殺人事件もDVも、それぞれの人物たちの心の奥に潜む心情の象徴的な表現だろうと考えられる。
 そのように思って観ていたのだが、少し気になったのは、17年前の平沢とあけみと伊井坂との3人の関係、伊井坂と佳織との過去の関係、美鈴の人々との微妙な関係などがやや説明不足のような気がしたことだった。
 だが逆に考えると、そのはっきりとしない人間関係の中に起こる不思議な事件が、いつの間にか起こって、いつの間にか風化してしまうところが怖ろしい伝説となって語り継がれそして影響を続けていくのが世の中なのかもしれない。
 思えばイナダの劇作には、そういう発想の作品が幾多もあるように思える、作家としての一つの特徴かもしれない。
 だがちょっと意外だったのは、今回のイナダ組の舞台には武田晋と山村素絵以外の劇団員が出演していないことだ。当日パンフに、最近は小さな町での仕事が多いと書いてあって、それを意識して新しい人たちと組んだのだろうか?